・・・っはっ、と無気味妖怪の高笑いのこして立ち去り、おそらくは、生れ落ちてこのかた、この検事局に於ける大ポオズだけを練習して来たような老いぼれ、清水不住魚、と絹地にしたため、あわれこの潔癖、ばんざいだのうと陣笠、むやみ矢鱈に手を握り合って、うろつ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・徳川幕府が仏蘭西の士官を招聘して練習させた歩兵の服装――陣笠に筒袖の打割羽織、それに昔のままの大小をさした服装は、純粋の洋服となった今日の軍服よりも、胴が長く足の曲った日本人には遥かに能く適当していた。洋装の軍服を着れば如何なる名将といえど・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・馭者が二人、馬丁が二人、袖口と襟とを赤地にした揃いの白服に、赤い総のついた陣笠のようなものを冠っていた姿は、その頃東京では欧米の公使が威風堂々と堀端を乗り歩く馬車と同じようなので、わたくしの一家は俄にえらいものになったような心持がした。・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・惜しいと云うのは、すでに長所を認めた上の批評であり、かつ短所をも知り抜いた上の判断で、一本調子に搦手ばかり、五年も六年も突ついている陣笠連とは歩調を一にしたくないからこう云うのであります。 そこでいよいよ現代文芸の理想に移って、少々気焔・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・清浦ととりまきの陣笠 婆芸者「百花園さんもさぞよろこんで居りますでしょうよ」 向島の芸者 ○ちりめんに黒い帯をしめ、かりた庭下駄の、肉感的極る浅草辺の女優と男二人の組。 ○カマクラの海浜ホテルで見た、シャンパ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫