・・・この模様ならもう少し不平を陳列しても差し支はない。「まずうちへ帰ると婆さんが横綴じの帳面を持って僕の前へ出てくる。今日は御味噌を三銭、大根を二本、鶉豆を一銭五厘買いましたと精密なる報告をするんだね。厄介きわまるのさ」「厄介きわまるな・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ 南側から入って螺旋状の階段を上るとここに有名な武器陳列場がある。時々手を入れるものと見えて皆ぴかぴか光っている。日本におったとき歴史や小説で御目にかかるだけでいっこう要領を得なかったものが一々明瞭になるのははなはだ嬉しい。しかし嬉しい・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・柱ある処には硝子の箱を据え付け、その中に骨董を陳列す。壁にそいて右の方にゴチック式の暗色の櫃あり。この櫃には木彫の装飾をなしあり。櫃の上に古風なる楽器数個あり。伊太利亜名家の画ける絵のほとんど真黒になりたるを掛けあり。壁の貼紙は明色、ほとん・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ きのう用事があって高島屋の店の前を歩いていたら、横の方の飾窓に古い女帯や反物の再生法の見本が陳列されていた。染物講習会が開催されているのであった。時節柄だなアという感想を沁々と面に浮べていろんなひとたちが見て通った。すると、その横の入・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・その時袁世凱がしきりにそこに陳列されていた一つの宝石をほめ、そのほめかたは、その宝石を進呈しようと云わせるまでつづくようだったということも。軍閥の巨頭袁を、立憲共和の新しい中華民国の大総統に推さざるを得なかったことが、最大の過誤であったとい・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・ フランス現代美術展覧会に陳列されたロダンの彫刻数点、クローデル嬢の作品も、深い感激を与えたものです。 読んだものの中では、「神曲」、ゲーテの作品数種。 印象の種類から云えば、まるで其等のものとは異いますが、先達て中、二科にあっ・・・ 宮本百合子 「外来の音楽家に感謝したい」
・・・などが陳列された。ケーテ・コルヴィッツの画業が、ナチスのものでありえなかったということは、とりもなおさず、彼女の生涯と芸術が戦争に反対し、人民の窮乏に反対する世界のすべての人々の宝であることを証明したのであった。 新海氏の伝記の冒頭に晩・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・実際に百貨店の娘さんたちの動きを見ていると、陳列台や勘定台の間を終始動いている動きは、劇しくせわしいけれども、動きそのものとして実に小刻みで小さい。若い脚がのびたいだけ伸ばされ、しなやかな背中が向きたいだけ大きく向きかわって闊達に動作してい・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ ――元、この室にいろんなものが陳列してあったんですが、それはレーニン博物館へ集めてしまった。 ムイロフが、太い指で粗末な赤ラシャ張の椅子におちてる埃をひろいながらいった。 ――しかし、家具はもとのまんまです。 こっちの室も・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 何人も気がつくごとく、ここに陳列せられた洋画は主として写生画である。どの流派を追い、どの筆法を利用するにしても、要するに洋画家の目ざすところは、目前に横たわる現実の一片を捕えて、それを如実に描き出すことである。彼らにとって美は目前に在・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫