・・・人間を改造するものは、良心の陶冶に依るものです。芸術の使命が、宗教や、教育と、相俟ってこゝに目的を有するのは言うまでもないことです。 一人の心から、他の心へ、一人の良心から、他の良心へと波動を打って、民衆の中にはいって行くものが、真の芸・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・政事は目下の安寧を保護して学者の業を安からしめ、学問は人を教育して政事家をも陶冶し出だす。双方ともに毫も軽重あることなしとの裁判にて、双方に不平なかるべし。 一国文明のために学問の貴重なること、すでに明らかなれば、その学問社会の人を尊敬・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・学育もとより軽々看過すべからずといえども、古今の教育家が漫に多を予期して、あるいは人の子を学校に入れてこれを育すれば、自由自在に期するところの人物を陶冶し出だすべしと思うが如きは、妄想のはなはなだしきものにして、その妄漫なるは、空気・太陽・・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・今委しくここに触れることは私の力にも及ばないことであるが、運動全体が非常に急速に高まり、非常に急速に退いたことは、上述の集団生活が人間性をより強固なものに陶冶する為に必要な条件と時間とを与えなかったように見える。強い中心的な磁力が失われたら・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・人格の陶冶されない男性の共通な癖として、若い女性の気持の夢を認めず、男性同様の現実的慾求が暗示されているものとばかり思い込みます。そして、そのように露骨に押しづよく出ると、若い、自分の肉体も心もどんなものかさえ知らない娘達は、異性間の磁力に・・・ 宮本百合子 「惨めな無我夢中」
・・・第二巻で経験する苦しみと危機との描写は、現代においても若い精神が教育とか陶冶とかいう名の下に蒙らなければならない戦慄的な桎梏と虚脱とを語っているのである。「少年時代」の中でトルストイが描いている家庭教師への憎みは貴族の子弟でもその背に笞・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫