・・・天武天皇の時代の地震で、土地五十万頃が陥落して海となったという記録があり、それからずっと後には慶長九年と宝永四年ならびに安政元年とこの三回の大地震が知られており、このうちで、後の二回には、海浜の地帯に隆起や沈降のあった事が知られている。さて・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あるいはまた河口における三角州の出現などを連想させるものがある。 なかんずく速・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・あたりの山と著しく模様変れるはいずれ別に火山作用にて隆起せるなるべし。これのみは樹木黒く茂りたり。蝉なくや小松まばらに山禿たりなど例の癖そろ/\出で来る。大阪にて海南学校出らしき黒袴下り、乗客も増したり。幸いに天気あまり暑か・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から外に傘状に広がる、そうしていつまでた・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・例えば時代や、季節や、人間の階級や、死因や、そういう標識に従って類別すれば現われ得べき曲線上の隆起が、各類によって位置を異にしたりするために、すべてを重ね合すことによって消失するのではあるまいか。 このような空想に耽ってみたが、結局は統・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・次の瞬間もうそこにはないその瞬間の腕の曲線、頸の筋骨の隆起、跳躍の姿がとらえられる。だが、そのうちに、ダイナミックに自然法則はとらえられる。「風知草」はやわらかいクレパスで、暖かい色調の紅い線で描かれた人生の歴史的時機のクロッキーとも云える・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
出典:青空文庫