・・・短い脚を、目に見えないくらい早くかわして逃げて行く乱れた隊列の中から、そのたびに一人また一人、草ッ原や、畦の上にころりころり倒れた。露西亜語を話す者のでない呻きが倒れたところから聞えてきた。「あたった。あたった。――そら一匹やっつけたぞ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ここで隊列を敷いていたフランス兵たちが生きながら瞬間に爆弾の土砂に埋められた。 更に一ヤードほど登った前方の草の間に、金の輪でも落ちているように光を放っているものがある。こごんでそれを眺め、私は覚えず息をつめた。 おおこれは一つの小・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・適当な間をおいて、赤十字のしるしのついた救護班のトラックをしたがえ、蜒々たる隊列は、標語板を林のようにゆるがせながら東京の焼け跡の街を押して来る。大手町の方を眺めると、歌声のとどろきと旗の波が刻々増大し、つきぬ流れは日本橋へ向っている。女の・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫