・・・ 熱沙限りなきサハラを旅する隊商も時々は甘き泉わき緑の木陰涼しきオーシスに行きあいて堪え難き渇きと死ぬばかりなる疲労を癒する由あれど、人生まれ落ちての旅路にはただ一度、恋ちょう真清水をくみ得てしばしは永久の天を夢むといえども、この夢はさ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・その結果として何年かの後には昔のロプ・ノールが復活し、従って廃都ローランの地には再び生命の脈搏がよみがえって来るであろうし、昔ローマの貴族のために絹布を運んだ隊商の通った道路が再び開かれるであろうと想像さるるに至った。 以上は近着の G・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・その愛が酪駝の隊商にも向かえば、梅蘭芳にも向かい、陶器にも向かえば、仏像にも向かう。特に色彩と輪郭と音響とは、彼から敏感な注意をうける。この心の自由さと享楽の力の豊かさとが、『地下一尺集』の諸篇をして、一種独特な、美しい製作たらしめるのであ・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫