・・・蘭陵の酒を買わせるやら、桂州の竜眼肉をとりよせるやら、日に四度色の変る牡丹を庭に植えさせるやら、白孔雀を何羽も放し飼いにするやら、玉を集めるやら、錦を縫わせるやら、香木の車を造らせるやら、象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・この近在の百姓が御料地の森へ入って、枯れ枝を集めるのは、それは多分禁制であろうが、彼らは大びらでやっているのである。その事は無論時田も江藤も知っていたので、江藤もよく考えたら森の奥のガサガサする音は必ずそれと気の付くはずなんだ。『それは・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・出席者が十人として、酒を二斗、これは俺が集める」「それは悪くないけど、二斗はすこし多くないか」「いや、多くない。ひとりに二升無くては面白くない」「しかし、二斗なんてお酒が集まるか?」「集まらない、かも知れん。わからないが、や・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・チキ新聞の広告取りみたいな事もやって居りまして、炎天下あせだくになって、東京市中を走りまわり、行く先々で乞食同様のあつかいを受け、それでも笑ってぺこぺこ百万遍お辞儀をして、どうやら一円紙幣を十枚ちかく集める事が出来て、たいへんな意気込みで家・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・節子、無言で、その辺に散らばった肴を皿の上に拾い集める。 やめろ! 拾うのは、やめてくれ。それは皆、捨てちまえ! 拾い集めてもらって、また食べるなんて、あまり惨めだ。惨めすぎる。少しは、こっちの気持も察してくれよ。ま・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・「それじゃ、お前は、僕の名前の出ている本を、全部片っ端から買い集めることが出来るかい。出来やしないだろう。」 へんな論理であったが、僕はムカついて、たまらなかった。その雑誌は、僕のところにも恵送せられて来ていたのであるが、それには僕・・・ 太宰治 「眉山」
・・・また少し種類が違っているが、品物を集めるのではなくて、古い書物や論文を愛読してその中からその価値の如何によらず人のあまり知らぬ研究や事実を掘出して自ら楽しみまた人に示すを喜ぶ趣味もある。これは多くの読書家に通有な事であるが、これも一種の骨董・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・雨のときはテントの屋根から集めるという。 晴夜が三晩もあれば、観測は終了するはずであるが、ここへテントを張ってから連日の雨か曇りでどうしても星が見えない。しかしいつなんどき晴れるかもしれないから、だれか一人は交代の不寝番で空を見張ってい・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ ことばの事実を拾い集めるのが言葉の科学への第一歩である。玉と石とを区別する前には、石も一応採集して吟味しなければならない。石を恐れて手を出さなければ玉は永久に手に入らない。三 春のラテン語が ver であるが、ポル・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・その頃を見計らって箒で掃き集めると米俵に一俵くらいは容易に捕れるというのである。また、鴉を捕る法としてはこんなのがある。牛の脊中へ赤い紙片を貼付け、尻尾に摺粉木を一本縛り付けて野良へ出しておく。鴉が下りて来て牛の脊中の赤い紙を牛肉と思ってつ・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
出典:青空文庫