・・・学風の新鮮を保ち沈滞を防ぐためにはやはりなるべく毛色のちがった人材を集めるほうがかえっていいかもしれないのである。同じことは他のあらゆる集団についても言われるであろう。 それはとにかく、ある時東海道の汽車に乗ったら偶然梅ヶ谷と向かい合い・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・妻は帯の間からハンケチを取り出して膝の上へ広げ、熱心に拾い集める。「もう大概にしないか、ばかだな」と言ってみたが、なかなかやめそうもないから便所へはいる。出て見るとまだ拾っている。「いったいそんなに拾って、どうしようと言うのだ」と聞くと、お・・・ 寺田寅彦 「どんぐり」
・・・ 七 常山の花 まだ小学校に通ったころ、昆虫を集める事が友だち仲間ではやった。自分も母にねだって蚊帳の破れたので捕虫網を作ってもらって、土用の日盛りにも恐れず、これを肩にかけて毎日のように虫捕りに出かけた。・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ マルキシズムその他いろいろなイズムの立場から蜜蜂に注文をつけるのは随意であるが、蜜蜂はそんな注文を超越してやっぱり同じように蜜を集めるであろう。そうして忙しい蜜蜂はおそらくそういう注文者を笑ったりそしったりする暇すらないであろうと思わ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 話が興味の中心に近いて来ると、いつでも爺さんは突然調子を変え、思いもかけない無用なチャリを入れてそれをば聞手の群集から金を集める前提にするのであるが、物馴れた敏捷な聞手は早くも気勢を洞察して、半開きにした爺さんの扇子がその鼻先へと差出・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・壁の上よりは、ありとある弓を伏せて蝟の如く寄手の鼻頭に、鉤と曲る鏃を集める。空を行く長き箭の、一矢毎に鳴りを起せば数千の鳴りは一と塊りとなって、地上に蠢く黒影の響に和して、時ならぬ物音に、沖の鴎を驚かす。狂えるは鳥のみならず。秋の夕日を受け・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ 「ふん、大将が鈴蘭の実を集めるなんておかしいや。誰かに見つけられたらきっと笑われるばかりだ。狐が来るといいがなあ」 すると足の下がなんだかもくもくしました。見るとむぐらが土をくぐってだんだん向こうへ行こうとします。ホモイは叫びまし・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・牛乳生産組合がどんな風に農民から牛乳を集めるか。 СССРで集団農業に移ろうとした時、農民及政府双方で一番困難したのは家畜の問題だった。穀類集団農業から集団牧畜へ。これは常に積極的刺戟を加えられている点である。この新聞で見ると牛乳協定は・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・この本が編輯されるまでに集めることのできなかった数篇をのぞいて。ソヴェトとして、この本にしるされている見聞は、ふた昔ちかい時代のことになっているだろう。しかし、日本のわたしたちにとっては決して古びて役にたたない歌のふしではない。なぜなら、こ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・薪を集めることから焚くことから、子供の世話をすることでも何でも、みな女の人が自分の体で解決しなければいけません。ところがアメリカのような国になると、電気とかいろいろな社会設備が発達しているから、家事的な労働の大部分は公共的な簡便さで解決され・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
出典:青空文庫