・・・話といったってねえ、新さん、酷く神経が鋭くなってて、もう何ですよ、新聞の雑報を聞かしてあげても泣くんですもの。何かねえ、小鳥の事か、木の実の話でもッておっしゃるけれど、どういっていいのか分らず、栗がおッこちるたって、私ゃ縁起が悪いもの。いい・・・ 泉鏡花 「誓之巻」
・・・小説と雑報とはどうかこうか読めた。それから源氏物語を読んだが読めればこそ、一行も意義を解しては読めない。省作は本を持ったまま仰向きにふんぞり返って天井板を見る。天井板は見えなくておとよさんが見える。 今夜は湯に行かない方がええかしら。そ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・誰れかが『報知新聞』の雑報を音読し初めた。 三宅坂の停留場は何の混雑もなく過ぎて、車は瘤だらけに枯れた柳の並木の下をば土手に沿うて走る。往来の右側、いつでも夏らしく繁った老樹の下に、三、四台の荷車が休んでいる。二頭立の箱馬車が電車を追抜・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・その雑報がある。「アクエリアム」で熊使いが熊を使うと云う事が載っている。熊が馬へ乗って埒の周囲をかけ廻る、棒を飛び超える、輪抜けをすると書いてある。面白そうだ。此度は広告を見た。「ライシアム」で「アーヴィング」が「シェクスピヤ」の「コリオラ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫