・・・平生はふつうの人のはいれない、離宮や御えんや、宮内省の一部なども開放されたので、人々はそれらの中へもおしおしになってにげこみました。 にげるについて一ばんじゃまになったのは、いろんなものをはこびかけている、車や馬車や自動車です。多くのと・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・療養院にも七年の風雨が見舞っていて、純白のペンキの塗られていた離宮のような鉄の門は鼠いろに変色し、七年間、私の眼にいよいよ鮮明にしみついていた屋根の瓦の燃えるような青さも、まだらに白く禿げて、ところどころを黒い日本瓦で修繕され、きたならしく・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ 私が昔二三人連れで英国の某離宮を見物に行った時に、その中のある一人は、始終片手に開いたベデカを離さず、一室一室これと引き合わせては詳細に見物していた。そのベデカはちゃんと一度下調べをしてところどころ赤鉛筆で丁寧にアンダーラインがしてあ・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ かつてロンドン滞在中、某氏とハンプトンコートの離宮を拝観に行った事がある。某氏はベデカの案内記と首引で一々引き合わして説明してくれたので大いに面白かった。そのうちにある室で何番目の窓からどの方向を見ると景色がいいという事を教えたのがあ・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・という元ツァーの離宮だった町に、プーシュキンが学んだ貴族学校長の家が、下宿になっていた。そこで書いた。一九二八年の八月一日には、弟の英男が思想的な理由から二十一歳で自殺した。そのしらせを、「子供の村」の下宿でうけとった。「赤い貨車」は小説と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・海に、面して眺望絶佳なところに床まで大理石ばりの壮大な離宮がある。それが今は農民のための療養所で、集団農場から休養にやって来ている連中が、楽しそうに芝生の上にころがって海の風に当っていた。 農村のために映画館を二万五千にふやしラジオは十・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・昔の離宮が今は勤労者のための愉快な公園博物館として開放されている。景色のいい池の辺にある一つの旧宮廷用の小建物が図書館出張所になっていた。労働組合員は、身分証明の手帖で、ごくやすい保証金をおさめ、自由に本の借り出しをされる。わたしもそこで随・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・の桂の離宮の美しさの描写にしろ、外国人であるタウトはそれぞれの手づるによって国の美の宝石を夥しく見る機会を与えられたが、この国のものが果して何人、礼服着用とたやすくない紹介のいるその建造物の美に直接触れているだろうか。絵画についても、彫刻に・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・毎年一ヵ月勤労者は有給休暇をもらって元は大ブルジョアの別荘や離宮だった景色のいい「休みの家」へ行ける。 農村で、集団農場のクラブへさえ集まれば、モスクワからのラジオが聴ける。映画が見られる。診療所が出来た。学校が出来た。託児所と共同食堂・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・昔の美しい離宮、ブルジョアの大別荘が、今は楽しい勤労大衆の休み場所になっている。〔一九三一年十一月〕 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
出典:青空文庫