・・・愛宕山は七高山の一として修験の大修行場で、本尊は雷神にせよ素盞嗚尊にせよ破旡神にせよ、いずれも暴い神で、この頃は既に勝軍地蔵を本宮とし、奥の院は太郎坊、天狗様の拠所であった。武家の尊崇によって愛宕は最も盛大な時であったろうが、こういう訳で生・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・女性のうちで、最もしいたげられ、悲惨な暮しをしていると言われているあのおいらんでさえ、私にとっては、実におそろしい、雷神以外のものではなかったのでした。 こんな工合に女から手ひどい一撃をくらった経験は、もう私にはかずかぎりも無くござ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・もはや、道々、わあ、わあ大声あげて、わめき散らして、雷神の如く走り廻りたい気持である。私は、だめだ。シェリイ、クライスト、ああ、プウシュキンまでも、さようなら。私は、あなたの友でない。あなたたちは、美しかった。私のような、ぶざまをしない。私・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・というのは、一人が雷神になって例えば障子の外の縁側へ出て戸をたたいて雷鳴の真似をする。大勢で車座に坐って茶碗でも石塊でも順々に手渡しして行く。雷の音が次第に急になって最後にドシーンと落雷したときに運拙くその廻送中の品を手に持っていた人が「罰・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・原子電子の存在を仮定する事によって物理界の現象が遺憾なく説明し得られるからこれらが物理的実在であると主張するならば、雷神の存在を仮定する事によって雷電風雨の現象を説明するのとどこがちがうかという疑問が出るであろう。もっとも、これには・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・それですから、北上川の岸からこの高原の方へ行く旅人は、高原に近づくに従って、だんだんあちこちに雷神の碑を見るようになります。その旅人と云っても、馬を扱う人の外は、薬屋か林務官、化石を探す学生、測量師など、ほんの僅かなものでした。 今年も・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・ 田舎の女にはよく二つ名前の有る人がある。家の二人の女中とも、 キク、とよんで居る女は一名キイ、 セキ、とよぶのはマサと云う。 雷神さんでどうとかこうとかしたんだそうだが何だか妙なもんだ。 活字でおしたまま、線の思い・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫