・・・それは雷雨のときに空中に起こっている大きな渦です。陸地の上のどこかの一地方が日光のために特別にあたためられると、そこだけは地面から蒸発する水蒸気が特に多くなります。そういう地方のそばに、割合に冷たい空気におおわれた地方がありますと、前に言っ・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・暴風や雷雨に対しては中央気象台に研究予報の機関が完備している。これらの設備の中にはいずれも最高の科学の精鋭を集めた基礎的研究機関を具備しているのである。しかるにまだ日本のどこにも一つの理化学的火災研究所のある話を聞いた覚えがないのである。・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・同じような異常は局部的な雷雨のためにもいろいろの形で起り得るのである。「浮世の風」となるとこんな二つや三つくらいの因子でなくてもっと数え切れないほど沢山な因子が寄り集まって、そうしてそれらの各因子の結果の合成によって凪になったり風になっ・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・その中に雷雨の生因と、雲および風の渦動との関係が予想されているのがおもしろい。また雷鳴の音響の生因について種々の考えがあげてあるが、この問題については現在でもまだ種々の異説があるくらいである。この方面の研究に没頭せる気象学者にとっては、この・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・あれぐらい昨日までしっかりしていたのに、明方の烈しい雷雨からさっきまでにほとんど半分倒れてしまった。喜作のもこっそり行ってみたけれどもやっぱり倒れた。いまもまだ降っている。父はわらって大丈夫大丈夫だと云うけれどもそれはぼくをなだめるためでじ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・大雷雨。桜の梢からセントエルモの火。暗のなか。十一、ノルデは三べん胴上げのまま地べたにべちゃんと落とされた。 どうだい。ひどくいたいかい。どう? あなたひどくいたい? ノルデつかれてねむる。十二、ノルデは太陽から黒い棘をとるため・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
大雷雨 大雷雨の空が夕焼のように赤らんでいるのを大変不思議に思いながら寝て、けさ新聞を見たら、落雷で丸之内の官衙が九つ灰燼に帰した出来ごとを知った。愛する東京よ、東京よ。何と自然の力の下に素朴な姿を横・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・ 九月三日 月曜 激しき雷雨あり、まるでまっしろに雨がふる。雨を冒しA俥で福井にゆき、汽車の交渉と、食糧を持って来る。汽車東海道は箱根附近の線路破かいされた為金沢から信越線にゆき、大宮頃迄だろうと云う。鎌倉被害甚しかろうと云うの・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・そして、戦争がすんで三年目のきょうの日本では、例年の二倍もはげしい雷雨でびしゃびしゃな駅の構内に、つめかけた群集で徹夜のさわぎをしている。汽車の切符は二倍半にあがる。タバコがあがる。公定価格のすべてがあがる。物価の一一〇倍にたいして、労働賃・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫