・・・が、その拍子に婆さんが、鴉の啼くような声を立てたかと思うと、まるで電気に打たれたように、ピストルは手から落ちてしまいました。これには勇み立った遠藤も、さすがに胆をひしがれたのでしょう、ちょいとの間は不思議そうに、あたりを見廻していましたが、・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・ からかうようにこういったのは、木村という電気会社の技師長だった。「冗談いっちゃいけない。哲学は哲学、人生は人生さ。――所がそんな事を考えている内に、三度目になったと思い給え。その時ふと気がついて見ると、――これには僕も驚いたね。あ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・なにしろお嬢さんがちかちか動物電気を送るんで、僕はとても長くいたたまれなかった。どうして最も美を憧憬する僕たちの世界には、ナチュール・モルトのほかに美がとりつかないんだろうかなあ。瀬古 どうかしてそのお嬢さんを描こうじゃないか。青・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・出ようとすると、向うの端から、ちらちらと点いて、次第に竈に火が廻った。電気か、瓦斯を使うのか、ほとんど五彩である。ぱッと燃えはじめた。 この火が、一度に廻ると、カアテンを下ろしたように、窓が黒くなって、おかしな事には、立っている土間にひ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 八田巡査は一注の電気に感ぜしごとくなりき。 四 老人はとっさの間に演ぜられたる、このキッカケにも心着かでや、さらに気に懸くる様子もなく、「なあ、お香、さぞおれがことを無慈悲なやつと怨んでいよう。吾ゃおま・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・目的はピー砲台じゃ、その他の命令は出さんから、この川を出るが最後、個々の行動を取って進めという命令が、敵に悟られん様に、聨隊長からひそかに、口渡しで、僕等に伝えられ、僕等は今更電気に打たれた様に顫たんやが、その日の午後七時頃、いざと一同川を・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・僕もきっとくるから、そして海の底の都には、こんな真珠や、紫水晶や、さんごや、めのうなどが、ごろごろころがっていて、建物なんか、みんなこれでできているから、電気燈がつくと、いつでも町じゅうがイルミネーションをしたようで、はじめてきたものは目が・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・たとえば、失業者及びこれと近い生活をする者をして、日常の必要品たる、家賃を始め、ガス、水道、電気等の料金に至る迄、極めて規則的に強要しつつあるのは、解釈によっては、暴力の行使という他はありません。 さらに、インフレーションにより、当然招・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ 中洲を出た時には、外はまだ明るく、町には豆腐屋の喇叭、油屋の声、点燈夫の姿が忙しそうに見えたが、俥が永代橋を渡るころには、もう両岸の電気燈も鮮やかに輝いて、船にもチラチラ火が見えたのである。清住町へ着いたのはちょうど五時で、家の者はい・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ と、自転車を走らせて急を知らせてくれ、お君が駆けつけると、黄昏の雪空にもう電気をつけた電車が何台も立往生し、車体の下に金助のからだが丸く転がっていた。 ぎゃッと声を出したが、不思議に涙は出ず、豹一がキャラメルのにちゃくちゃひっつい・・・ 織田作之助 「雨」
出典:青空文庫