・・・それは実際電波のように僕の体にこたえるものだった。彼等は確かに僕の名を知り、僕の噂をしているらしかった。「Bien……trs mauvais……pourquoi ?……」「Pourquoi ?……le diable est mort・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 二 二千年前に電波通信法があった話 欧洲大戦の正に酣なる頃、アメリカのイリノイス大学の先生方が寄り集まって古代ギリシアの兵法書の翻訳を始めた。その訳は、人間の頭で考え得られる大概の事は昔のギリシア人が考えてしまっ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・上田から長野へ電線で送られた唱歌が長野局から電波で放送され、それがエーテルを伝わってもとの上田の発源地へ帰って来ているのである。何でもない当り前の事であるが、ちょっと変な気のするものである。 あとで新聞を見たら、この地で七十年ぶりという・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・この考えは更に電波の現象によって確かめらるるに至った。この考えによれば電子の荷電のエネルギーは電子その物に存すると考えるよりは、むしろその範囲の空間に存すると思われるのである。すなわち空間に電場の中心がある、それが電子であると考えられる。こ・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・熱の輻射も無線電信の電波も一つの連続系の部分になってしまって光という言葉の無意味なために今では輻射線という言葉に蹴落とされてしまったのである。 今日のように非人間的に徹底したように見える物理学でもまだ徹底しない分子を捜せばいくらでも残っ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ 現象の本性に関する充分な知識なしに、ただ電気のテクニックの上皮だけをひとわたり承知しただけで、すっかりラディオ通になってしまったいわゆるファンが、電波伝播の現象を少しも不思議と思ってみる事もなしに、万事をのみこんだ顔をしているのがおか・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・日本のラジオはこの少数委員会のもつ非常に大きな権限と電波庁との統制をうけることになる。一般の人々が政府案をラジオの官僚統制案とみていることはさけがたい必然である。政府案第十二条は、この五人の委員が「任命後最高裁判所長の面前に於て正規の宣誓書・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・特定の波長に対しては特定の検波器がある。電波に関するこの中学生的常識は、文学における原作者と翻訳者との関係にも極めて自然に適用される。すなわち、私はこれだけのことを云いたい。私は訳者を識っている。平常着のままでよろこんだり、むずかったり、癇・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・その上、日本の今日の技術では、全波に切り替えて行くスウィッチの製作が未熟であって、とても自由に地球をめぐる電波は捕えかねるらしい。固定させて、それぞれの聴取目的の波長にやや合わせて、幾つかをきめて切り替えて行くスウィッチならば、相当の性能を・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・今日私たちの住む地球の上は毎秒三〇万粁の速度で、昼夜を分たず世界各国語による交通が電波によって飛び交っているのであるが、最も興味あるべきこの世界ニュースの聴取が日本では極めて狭い範囲に止められているのはどういう理由からであろう。日本の民間の・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫