・・・と、おじいさんと、おばあさんは、ぶるぶると震えながら、話をしていました。 夜が明けると、沖は真っ暗で、ものすごい景色でありました。その夜、難船をした船は、数えきれないほどであります。 不思議なことには、その後、赤いろうそくが、山のお・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・高校生に憧れて簡単にものにされる女たちを内心さげすんでいたが、しかし最後の三日目もやはり自信のなさで体が震えていた。唄ってくれと言われて、紅燃ゆる丘の花と校歌をうたったのだが、ふと母親のことを頭に泛べると涙がこぼれた。学資の工面に追われてい・・・ 織田作之助 「雨」
・・・と外の声は震えていた。「維康いう人は沢山いたはります」にこりともせず言った。「維康柳吉や」もう蝶子の折檻を観念しているようだった。「維康柳吉という人はここには用のない人だす。今ごろどこぞで散財していやはりまっしゃろ」となおも苛めにかかったが・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・水野はかまわず、ズンズン読む、その声は震えていた。「ついてはご自身で返事書きたき由仰せられ候まま御枕もとへ筆墨の用意いたし候ところ永々のご病気ゆえ気のみはあせりたまえどもお手が利き候わず情けなき事よと御嘆きありせめては代筆せよと仰せられ・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・』お梅は時田の顔を見て言ったがその声は少し震えていた、しかし時田はそんなことには気がつかないかして、すこぶる平気で、『なるべくは家にいた方がよかろう、そうしないとなおの事継母との間がむずかしくなるからッて、留めてやった、かあいそうに泣い・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・男は自分の思惑を憚るかして、妙な顔して、ただもう悄然と震え乍ら立って居る。「何しろ其は御困りでしょう。」と自分は言葉をつづけた。「僕の家では、君、斯ういう規則にして居る。何かしら為て来ない人には、決して物を上げないということにして居る。・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・ 見ると次郎は顔色も青ざめ、少年らしい怒りに震えている。何がそんなにこの子を憤らせたのか、よく思い出せない。しかし、私も黙ってはいられなかったから、「お前のあばれ者は研究所でも評判だというじゃないか。」「だれが言った――」「・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・又、彼女の唇は、心の中に湧いて来る種々な思いに応じて、物は云わないでも、風が吹けば震える木の葉のように震えました。 私共が言葉で自分達の考えを表す時、仲だちとなるものは容易に見つかりません。大抵の場合不確な考えの翻訳と云う順序を踏まなけ・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・私が両膝をそろえて、きちんと坐り、火鉢から余程はなれて震えていると、「なんだ。おまえは、大臣の前にでも坐っているつもりなのか。」と言って、機嫌が悪い。 あまり卑下していても、いけないのである。それでは、と膝を崩して、やや顔を上げ、少・・・ 太宰治 「一燈」
・・・と夫は、威たけ高に言うのですが、その声は震えていました。「恐喝だ。帰れ! 文句があるなら、あした聞く」「たいへんな事を言いやがるなあ、先生、すっかりもう一人前の悪党だ。それではもう警察へお願いするより手がねえぜ」 その言葉の響きには・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
出典:青空文庫