・・・ 粋の精神はまた一面において俳諧の精神と握手するところがある。露骨な真実、平板な虚欺、その二つの世界の境界に中立地帯のようにしかも高次元の空間に組み立てられた俳諧の世界がある。実と虚と相接するところに虚実を超越した真如の境地があって、そ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(※[#ローマ数字7、1-13-27])」
・・・引っ返すこの男と、あとから出発した直八と、中間を歩いている子供とが途中で会合することを暗示しただけで幕をおろすという暗示的な手法をとった一方で、こんな露骨なお芝居を見せるのは矛盾である。 ついでながら、歩幅と同時に歩調を勘定に入れなけれ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかしまだ印刷工組合に小野鉄次郎がいたころは、彼にしろ長野にしろ、こんなに露骨にはいわない筈であった。「高坂が準備してるいうやないか?」 こんどは長野が三吉をのぞきこんだ。高坂はやはり印刷工組合の幹部で、自分で印刷工場も経営している・・・ 徳永直 「白い道」
・・・現今の教育の結果は自分の特点をも露骨に正直に人の前に現わす事を非常なる恥辱とはしないのであります。これは事実という第一の物が一元的でないという事を予め許すからである。私の家へよく若い者が訪ねて参りますがその学生が帰って手紙を寄こす。その中に・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・日本の現代開化の真相もこの話と同様で、分らないうちこそ研究もして見たいが、こう露骨にその性質が分って見るとかえって分らない昔の方が幸福であるという気にもなります。とにかく私の解剖した事が本当のところだとすれば我々は日本の将来というものについ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・「大分露骨ですね、あんまり教育家らしくもないビジテリアンですね。」と陳さんが大笑いをしながら申しました。 ところがその拍手のまだ鳴りやまないうちにもう異教徒席の中から瘠せぎすの神経質らしい人が祭壇にかけ上りました。その人は手をぶるぶ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・すると、突然、今まで居るとも思えなかった一人の友達が、多勢の中から突立ち、どうしたことか、まるでまる真赤な洋服を着て、非常に露骨な強い言葉でその先生の不公平を罵倒し始めた。始めのうちは、条理が立って居たのが次第に怪しくなって、仕舞いには、何・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・私はすぐに畳み掛けて露骨に云った。「君金があるのか。」 F君は黙ってはいられなくなった。「金は東京から来る汽車賃に皆使ってしまったのです。国から取れば、多少取れないこともありませんが、目前の用には立ちません。当分あなたの所に置いて下さる・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・誰からも尊敬されているような人物よりも、誰からも軽蔑されている人物の方が正確に人をよく見ていることの多いのも、露骨に人はそのものの前で自分をだましてしまうからにちがいない。このようなところから考えても、ドストエフスキイが伯爵であるトルストイ・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・こういう事になると子供は露骨に意地を張り通します。もちろん私は子供のわがままを何でも押えようとは思いませんが、しかし時々は自分の我のどうしても通らない障壁を経験させてやらなければ、子供の「意志」の成長のためによろしくないと考えています。で、・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫