・・・ うすく霜の降りた、ある寒い朝、からたちの枝の先のところにしがみついて、金色の日の光を、ありがたそうに待っている青虫がありました。いじらしくも、そのからだには、わずかに羽が生えかかっているのでした。 たまたまかたわらにあった家の窓か・・・ 小川未明 「冬のちょう」
・・・晩の御馳走は、蛙の焼串、小さい子供の指を詰めた蝮の皮、天狗茸と二十日鼠のしめった鼻と青虫の五臓とで作ったサラダ、飲み物は、沼の女の作った青みどろのお酒と、墓穴から出来る硝酸酒とでした。錆びた釘と教会の窓ガラスとが食後のお菓子でした。王子は、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・今にまた例の青虫が出るだろうと思って折々気をつけて見るが、今年はどうしたのか、まだあまり多くは発生しない。その代り今年はこれと変った毛虫が非常に沢山に現われて来た。それは黒い背筋の上に薄いレモン色の房々とした毛束を四つも着け、その両脇に走る・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・おまけにキャベジ一つこさえるには、百疋からの青虫を除らなければならないのですぜ。それからみなさんこの町で何か煮たものをめしあがったり、お湯をお使いになるときに、めまいを起さないように願います。この町のガスはご存知の通り、石炭でなしに、魚油を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 花弁のかげに青虫がたかって居た。 気味が悪いから鶏に投げてやると黄いコーチンが一口でたべて仕舞う。 又する事がなくなると、気がイライラして来る。 隣りの子供が三人大立廻りをして声をそろえて泣き出す。 私も一緒にああやっ・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ ホールへ入りながら、そして、外側はあんな青虫のように青かったのに、内部一面は見渡す限り茶色なのに、また異った暑気を感じながら、私は、「一寸お昼がたべさせて欲しいのだが……」と告げた。――これは予定の行動であった。若し第一瞥が余・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫