・・・同じ人で静物は甲の仏人、人物は乙の仏人といったように真似の使い分けをしているのもある。 椎塚氏の絵には何時もながら閉口するが、しかしこの人は、別にこれらの絵を人に見せて賞めてもらうために描いているらしく見えないところを頼もしく思う。・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・ 椎塚氏の綿密な静物が私に与える感じは、丁度グロテスクの感じと実質的に同じ感じである。それは必ずしもグロテスクな題材を取扱ったものでなくても、そうである。 これと反対に、例えばザッキンの妙な人形の絵など、随分形式的にはグロテスク・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・中川一政氏の素朴な静物も今日よく見直してみてもやはり何とも説明し難い実に愉快なすがすがしさをもっている。これらの絵はみんな附焼刃でない本当に自分の中にあるものを真正面に打出したものとしか思われない。これに反して今時の大多数の絵は、最初には自・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・家族のものや静物をその父の古いコダックでよくとった。自分では写真機を余りもたず、外国を旅行したとき伯林でこんな笑い話を友達からきいた。ドイツの小学生に先生が質問した。日本人と米国人とはどこがちがいますか? 子供の答えに曰く。年よりで、ズボン・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・のちがい○顕微鏡の力と予言者の視力とをかね備えた 彼の幻想家的な知力にとむリアリズム、p.202○一切を彼は不思議に内部から認識する ゾラとの著しき対比 フランスの自然主義の欠点 静物○ドストイェフスキーは聴覚の天才・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・「夕」三谷十糸子、「娘たち」森田沙夷などは、それぞれに愛すべき生活のディテールをとらえて、画に生活の感情をふき込もうとしているに対して煩悶のない有馬氏の「後庭」はじめ「温室」「レモンと花」「静物」等、殆どすべてがアトリエ中心であり、自足して・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・彼には横たわっている妻の顔が、その傍の薬台や盆のように、一個の美事な静物に見え始めた。 彼は二人の間の空間をかつての生き生きとした愛情のように美しくするために、花壇の中からマーガレットや雛罌粟をとって来た。その白いマーガレットは虚無の中・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・しかし日本絵の具で絹の上に、あるいは金箔の上に、洋画の静物の背景のようなムラのある塗り方をしたらどうなるだろう。それが不可能であることを承知していればこそ、日本画家はそれを避けるのではないか。そうして実際の印象とは縁の遠い、ムラのない単色の・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫