・・・という事がよほど複雑な非常識的なものになってしまう。しかしそこにまたこの時計の妙味もあるのである。譬喩を引けば浦島太郎が竜宮の一年はこの世界の十年に当たるというような空想や、五十年の人生を刹那に縮めて嘗め尽くすというような言葉の意味を、つま・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ 新聞記事はこれに限らず、人殺しでも心中でも、皆一定の公式があって、簡単に無理やりにその型にはめ込んで書いてしまうから、どの事件も同じように不合理非常識な概念の化け物でこね上げられたものになっているのは周知の事実である。しかしこれは必ず・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・これは何も現代の教育の欠陥ではなくて自分の非常識によるのであろう。デモクラシーを神経衰弱の薬、レニンを毒薬の名と思っていた小学校の先生があったそうであるが、自分のはそれよりいっそうひどいかもしれない。しかしレニンやデモクラシーや猫のゴロゴロ・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・たとえば火の発明の記事は現に私の机上にある科学者の火に関する著書の内容そのままであり、言語の起源に関する考えは、近代言語学者中の最も非常識なる説よりも、もう少し要を得ている。 冶金、紡織、園芸の起源や、音楽、舞踊の濫觴までもおもしろく述・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ セコンドメイトは、私が、どんなに非常識な事をいっても「憤ってはならない」と心の中で決めているらしかった。 ――若し、今、こいつに火をつけたら、ダイナマイト見たいに、爆発するに決ってる。俺が海事局へ行ってから、十分に思い知らしてやれ・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・容まで明らかにして多数の反響と一致する一つの事実についても述べていることにはあえてふれず、自分の仕事の完成していないのがわかっているなら、いわれたままをうけいれろ、とつめよるのはいいがかりじみているし非常識である。 もしめったにとりつけ・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・拵えたものが農村で入用だのに、その代りとして農産物を出したくないという非常識なものがあろうとも思えない。では、その二つの極を、どういう仕組みで繋いだら、一番総ての人の満足に近づくことが出来るだろうか。そういう風に考えを展開させてゆくことは、・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・ある独逸語教授の非常識な採点法によって、学年試験に三十五人のうち十七人落第させられる。その内の一人となる。八月、足尾銅山に遊び、処女作「穴」を書く。この作品は川村花菱氏を通じ伊原青々園の『歌舞伎』にのせられた。 一九一一年。名古屋の或る・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・国鉄の非常識な値上、公定価格の全般的吊上げが発表されている。今日、疎開している人口は、どのくらいあるか、疎開した学生の数は何人あるだろうか。疎開した勤人、疎開している学生は、都会の住居難から、たいていは遠距離を通勤、通学している。その人達の・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 私たち女は女でなくては書けないような非常識な文章があり得るということについてまじめに自省しなければなるまいと思う。台所のことは男に分らないといったのは昔のことで、この頃の一般家庭の良人や父親は幼児の粉ミルクのために、一束の干うどんのた・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫