・・・「――いえさ、おれのような職人だったんだが、マルクスと一緒にドイツ革命に参加したり、哲学書をかいたり、非常にえらい人だったそうだ」 母親は、それで見当がついた風で、「すると、やっぱりシャカイシュギかい?」 などという。――・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 水戸の御家人や旗本の空屋敷が其処此処に売物となっていたのをば、維新の革命があって程もなく、新しい時代に乗じた私の父は空屋敷三軒ほどの地所を一まとめに買い占め、古びた庭園や木立をそのままに広い邸宅を新築した。私の生れた時には其の新しい家・・・ 永井荷風 「狐」
・・・しかもその無理を遂行しようとすれば、学校なら騒動が起る、一国では革命が起る。政治にせよ教育にせよあるいは会社にせよ、わが朝日社のごとき新聞にあってすらそうである。だから世間でもそう規則ずくめにされちゃたまらないとよく云います。規則や形式が悪・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・就中親族編の如きは、古来日本に行われたる家族道徳の主義を根底より破壊して更らに新主義を注入し、然かも之を居家処世の実際に適用す可しと言う非常の大変化にして、所謂世道人心の革命とも見る可きものなるに、其民法の草案は発布前より早く流布して広く世・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・而して後に俳壇の革命は成れり。 ある人咸陽宮の釘かくしなりとて持てるを蕪村は誹りて「なかなかに咸陽宮の釘隠しと云わずばめでたきものなるを無念のことにおぼゆ」といえり。蕪村の俗人ならぬこと知るべし。蕪村かつて大高源吾より伝わる高麗の茶碗と・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・それはマグノリアの木にもあらわれ、けわしい峯のつめたい巌にもあらわれ、谷の暗い密林もこの河がずうっと流れて行って氾濫をするあたりの度々の革命や饑饉や疫病やみんな覚者の善です。けれどもここではマグノリアの木が覚者の善でまた私どもの善です。」・・・ 宮沢賢治 「マグノリアの木」
・・・ この時期の評論が、どのように当時の世界革命文学の理論の段階を反映し、日本の独自な潰走の情熱とたたかっているかということについての研究は、極めて精密にされる必要がある。そして、当時のプロレタリヤ文学運動の解釈に加えられた歪曲が正される必・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・「革命党ですね。」 己は大理石の卓の上にあるマッチ立てを引き寄せて、煙草に火を附けて、椅子に腰を掛けた。 暫くしてから、脚長が新聞を卓の上に置いて、退屈らしい顔をしているから、己はまた話し掛けた。「へんな塔のある処へ往って見て来・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ただそれのみの完成にても芸術上に於ける一大基礎概念の整頓であり、芸術上に於ける根本的革命の誕生報告となるのは必然なことである。だが、自分はここではその点に触れることは暗示にとどめ、新感覚の内容作用へ直接に飛び込む冒険を敢てしようとするのであ・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・この劇的雄弁術を演技だと考えていた吾人は、デュウゼが新しい考え方と演じ方とをもって出現するに及び革命に逢着した。デュウゼにとっては動作は終局でない。真の演技の邪魔となるに過ぎない。彼女にとっては最も大なる瞬間は最も深い静寂の時である。情熱を・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫