・・・次いでは、フランドルの歴史家、フィリップ・ムスクが千二百四十二年に書いた、韻文の年代記の中にも、同じような記事が見えている。だから十三世紀以前には、少くとも人の視聴を聳たしめる程度に、彼は欧羅巴の地をさまよわなかったらしい。所が、千五百五年・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・その第一回は美妙の裸蝴蝶で大分前受けがしたが、第二回の『於母影』は珠玉を満盛した和歌漢詩新体韻文の聚宝盆で、口先きの変った、丁度果実の盛籠を見るような色彩美と清新味で人気を沸騰さした。S・S・Sとは如何なる人だろう、と、未知の署名者の謎がい・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・博士は又大詩人であって『死地に乗入る六百騎』というような韻文が当時の青年の血を湧かした。 二十五年前には琴や三味線の外には音楽というものが無かった。オルガンやヴヮイオリンは学校の道具であって、音楽学校の養成する音楽者というは『蛍の光』を・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・絵もなかなかおもしろいが絵とちゃんぽんに印刷されたテキストが、われわれが読んでさえ非常に口調のいいと思われる韻文になっていて、おそらく、ロシアの子供なら、ひとりでに歌わないではいられなくなるであろうと思われるものである。簡単に内容を紹介する・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・たとい後者なりとも文法学者をして言わしめば文法に違いたりとせん、はたして文法に違えりや、はた韻文の文法も散文のごとくならざるべからざるか、そは大いに研究を要すべき問題なり。余は文法論につきてなお幾多の疑いを存する者なれども、これらの俳句をこ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫