・・・そして順番にやわらかく、民謡の様な左の文句を口ずさむ。雪の降る日に小兎は、あかい木の実のたべたさに親の寝た間に山を出で城の門まで来は来たが赤い木の実は見えもせず路は分らず日は暮れる長い廊下のまどの下何・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・此間だも――と村校友達となぐり合を始めて相手に鼻血を出させたが、元はと云えばブランコの順番からで夜まで家へ帰されなかったと話して聞かせた。「御免なして下さりませ、ほんに物の分らん児だちゅうたら。「かまいやしないよ、子供の・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・何故なら、普通の人の感情では質問の順番が、どうしてそれほど重大なのか、結局前もって告げられていた通りの順で、ともかく過ぎ得たものを何故一応揉まなければならないのか、納得しにくいのであるから。 所謂選良たちを選び出している一般人が、傍聴人・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を待っている人々の列があった。この小さい蕎麦・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・この弥一右衛門は家中でも殉死するはずのように思い、当人もまた忠利の夜伽に出る順番が来るたびに、殉死したいと言って願った。しかしどうしても忠利は許さない。「そちが志は満足に思うが、それよりは生きていて光尚に奉公してくれい」と、何度願っても、同・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・しかし順番がなかなか来ぬので、とうとう日の暮れるまで待った。何も食わずに、腹が耗ったとも思わずにいたのである。暮六つが鳴ると、神主が出て「残りの番号の方は明朝お出なさい」と云った。 次の日には未明に文吉が社へ往った。番号順は文吉より前な・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。作者ヘルマン・バアルも俳優の一行とともに、がらんとした大きな室で自分たちの順番の来るのを待っていた。 霧、煙、ざわざわとした物音、荒々しい叫び声、息の詰まるよ・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫