・・・ またひとりの若い頑丈そうな柏の木が出ました。「何だと、」清作が前へ出てなぐりつけようとしましたら画かきがとめました。「まあ、待ちたまえ。君のうただって悪口ともかぎらない。よろしい。はじめ。」 柏の木は足をぐらぐらしながらう・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・あとのものはみんな頑丈そうだから自分で勝手に仕事をさがせ。もしどうしても自分でさがせなかったらおれの所に相談に来い。」「かしこまりました。ありがとうございます。」みんなはフクジロをのこして赤山のような人をわけてちりぢりに逃げてしまいまし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・見ると一人の赤い帽子をかぶった年老りの頑丈そうな百姓が革むちをもって怒って立っていました。「もう一くぎりも働いたかと思って来て見ると、まだこんなところに立ってしゃべくってやがる。早く仕事へ行け。」「はい、じゃさよなら。」「ああさ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・亮二は見っともないので、急いで外へ出ようとしましたら、土間の窪みに下駄がはいってあぶなく倒れそうになり、隣りの頑丈そうな大きな男にひどくぶっつかりました。びっくりして見上げましたら、それは古い白縞の単物に、へんな簑のようなものを着た、顔の骨・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・ むき出しの頑丈そうな腕を大きい胸の上に組んで、白い布をかぶった女が中老学者の家事ぶりを眺めていた。彼女は日本女を見ると珍しそうに目で笑い、だが何にも余計なことをいわず、頼まれただけの湯呑と急須とをゆっくり棚からとってくれた。湯呑の一つ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ いかにも南フランスの農民出らしい頑丈な、陽気な、そして幾らかホラ吹きな父ベルナールと、生粋のパリッ子で実際的な活動家で情がふかいと同時に小言も多い若い母との間に、三人の子があったが、その総領として「よく太った、下膨れの顔の、冬になると・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・彼女はもちまえの頑丈な体でドシドシ前進するソヴェト同盟の社会情勢と並んで進み、前進する一つの社会的階程にあてて一つずつの作品を書く精力をもっている。 例えばここに一人の労働婦人があって、ソヴェト権力確立とともに生産の中へ働くようになり、・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・いつの間にか背後の生垣の処に植木屋に混って詰襟を着た頑丈な男が蹲んで朝日をふかし始めた。石の門柱を立てる、土台の凝固土に菰がかぶせてある。そこから、ぶらりと背広を着た四十がらみの男が入って来た。「やあ」 手塚は立ち上りそうにしたのを・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・そこで、ゴーリキイは書いた。頑丈な二十四歳のゴーリキイの胸に溢れるロマンチシズム、より高く、より強く、自由に美しく生きようとする憧憬を誇り高きジプシイの若者ロイコ・ゾバールの物語にもり込んだ。一篇の「マカール・チュードラ」は当時の蒼白い、廃・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・そのことを知った時、この頑丈な若者は狂喜のあまり生れて初めて卒倒した。 ゴーリキイは真直ぐ、ニージュニへ帰った。そして月二留の家賃で或る家のひどい離家、というより棄てられた浴室を借り、オリガとその娘との三人暮しがはじめられた。 それ・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫