・・・「私の主人は香港の日本領事だ。御嬢さんの名は妙子さんとおっしゃる。私は遠藤という書生だが――どうだね? その御嬢さんはどこにいらっしゃる」 遠藤はこう言いながら、上衣の隠しに手を入れると、一挺のピストルを引き出しました。「この近・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・墺匈国で領事の置いてある所では、必ず面会しなくてはならない。見聞した事は詳細に書き留めて、領事の証明書を添えて、親戚に報告しなくてはならない。 ポルジイは会議の結果に服従しなくてはならない。腹を立てて、色々な物を従卒に打ち附けてこわした・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・続いてN国領事のバロン何某と中年のスカンジナビア婦人が二人と駆けつけて来た。婦人たちがわりに気丈でぎょうさんらしく騒がないのに感心した。 室の片すみのデスクの上に論文の草稿のようなものが積み上げてある。ここで毎日こうして次の論文の原稿を・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
出典:青空文庫