・・・しかし自由にこのような進化を遂げうるためには作者の頭がかなり広大な領土を所有している上にその頭の働きが自由に可撓性であって自分自身の考えの死骸の上を踏み越え踏み越え進行しうるだけの能力をもっているということが必要条件である。芭蕉のごときはそ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・明治の初年に狂気のごとく駈足で来た日本も、いつの間にか足もとを見て歩くようになり、内観するようになり、回顧もするようになり、内治のきまりも一先ずついて、二度の戦争に領土は広がる、新日本の統一ここに一段落を劃した観がある。維新前後志士の苦心も・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ピエール・ロチは欧洲人が多年土耳古を敵視し絶えずその領土を蚕食しつつある事を痛嘆して『苦悩する土耳古』と題する一書を著し悲痛の辞を連ねている。日本と仏蘭西とは国情を異にしている。大正改元の頃にはわたくしも年三十六、七歳に達したので、一時の西・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・固より新たに開拓する領土の事でありますから、御参考になるほどにはできておりません。けれども、あの議論の上へ上へとこれからの人が、新知識を積んで行って、私の疎漏なところを補い、誤謬のあるところを正して下さったならば、批評学が学問として未来に成・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 世界連帯のひろやかな展望から見て、旧い領土問題から出発した「日本のため」という観念が、どんなに狭い限界をもつのであるか、今日判断をあやまるものはないと思う。世界人類の福祉という公的な観念と対比すれば、日本の軍閥の意味した「日本のため」・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・国連憲章は第二条第四項で、領土保全と政治的独立に対して武力をもって脅威することを禁じている。第七項にその国の内政に干渉する権能を国連に与えてはならないという条項が厳存している。わたしたち日本の婦人は、どういう戦争にも日本人民として「使用」さ・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・ この次の機会にこそ、日本は漁夫の利をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前にありついて、前回でものにしそこねた北や南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。あれこれと形をかえて、民間にはいりこんでいるもとの・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相似していた。――この時からナポレオンの奇怪な哄笑は深夜の部屋の中で人知れず始められた。 彼の田虫の活動はナポレオンの全身を戦慄させた。その活動の最・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・しかしこの画によって日本画に新しい領土が切り開かれなかったことは、悲しむべきではなかろうか。もしこの画が現在の描き方で行けるところまで行き切ったものとすれば、ここに画家の態度を変更する必要が示されているのである。これまでの日本画が欲しなかっ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫