・・・「清衡朝臣の奉供、一切経のうちであります――時価で申しますとな、唯この一巻でも一万円以上であります。」 橘南谿の東遊記に、これは清衡存生の時、自在坊蓮光といへる僧に命じ、一切経書写の事を司らしむ。三千日が間、能書の僧数百人を・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・という小説を、文芸推薦の選衡委員会で極力推薦してくれたことは、速記に明らかである。当時東京朝日新聞でも「唯一の大正生れの作家が現れた」という風に私のことを書いてくれた。「夫婦善哉」を小山書店から出さないかというような手紙もくれた。思えば、私・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ 志願書を出して間もなく選衡試験が行われる。その口答試問の席上で、志願の動機や家庭の情況を問われた時、「姉妹二人の暮しでしたが……。」 と言いながら、道子は不覚にも涙を落し、「あ、こんなに取り乱したりして、きっと口答試問では・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・先ず荷物を預けんとて二人のを一緒に衡らす。運賃弐円とは馬鹿々々しけれど致し方もなし。楠公へでも行くべしとて出立たんとせしがまてしばし余は名古屋にて一泊すれども岡崎氏は直行なれば手荷物はやはり別にすべしとて再び切符の切り換えを求む。駅員の不機・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・ 次にゼンマイ秤で物の目方を衡る場合を考えてみよう。不断に変化する宇宙全体が秤皿に影響してその総効果が収斂しなかったら一物の目方という定まった観念を得る事は出来まい。これだけでも第一目方とか質量とかいう言葉は意味を失うに相違ない。がただ・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は、経済上の性質をもっているにしろ、その根に、精神の軛として、封建的な家族制度がのしかかっている。今度の第二次世界戦争で、日本の軍事的権力は百四万以上の生命を犠牲とした。家庭は、既に強権に・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 一九三〇年に入ってから、ヒトラーのナチスは総選挙で多数党となり、ドイツの全人民が知識階級をもこめて、その野蛮な軛の下に苦しむ第一歩がふみ出された。どうして、第一次ヨーロッパ大戦後のドイツに、ヒトラーの運命が、そんな人気を博したのであっ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 私たちが、まだ十分自覚し用意していないすきに乗じて、再び人民に軛をかける金持、地主、ダラ幹の政党が、バッコしようとしている気配があるからです。 皆さん! 私たちの一票は、是非とも私たちの幸福のために使いましょう。 きのうの・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・ それらの経験と行くさきの新興産業とはどんな関係にあるかというような詳細に亙って、作家と目的地との関係などは詮衡されなかった。「生産への異国趣味を排撃せよ!」というスローガンが、自己批判として現れたのは、極めて自然な結果であった。 ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・がトップであったが、詮衡委員会は「中島敦全集」をおした。 ところで、注目されることは、いわゆる風俗文学の作者たち、中間小説と称するよみものがかけないものは文学上の半人足であるとするような作家たち自身が、他の半面では、いわゆる純文学と・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫