・・・を表わす象徴としての顕在像が普遍的のものでなく人々の個人的な歴史によってのみ規定されたものであるから読み取ることが困難だというのである。 映画や連句の場合においても、一つ一つの顕在的な映像の底にかくれた潜在的内容が多量に存在している。モ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり価値があるのではないかと思うが、そういう意味から言えば自分にとってはマーブルの卓上におかれた一杯のコーヒーは自分・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・本体を表現するに現象をもってせよ、潜在的なる容器に顕在的なる物象を盛れというのである。本情といい風情というもまた同じことである。これはおそらくひとわたりの教えとしては修辞学の初歩においても説かれうることであろうが、それを実際にわが物として体・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・を読み取る唯一の言葉であるように思われて来たのである。顕在的なる「我れ」のみの心理を学んで安心していたわれわれは、この夢の現象から潜在的「我れ」の心を学び知って、愕然として驚きまた恐れなければならなくなったようである。そうして私はまたこの夢・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・かつて意識の底によどんで潜在し、ヒステリーをおこさせていたものを、みずから意識し、更にそこから苦悩の原因をとりのぞくために、きわめて現実的に、顕在的に行為する時代にはいって来ている。わたしたちの心に疼くきょうの自由についてのコンプレックスは・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫