・・・「此点は、私に性格の或類似からよくわかる。私の感情は、彼より単純で、粗朴で、同時に盲目な生命の力に支配されずに居ない強烈さを持って居る。従って、彼より憎らしい女になる時がある代り、その強さが素直に出た時、私が辛じて、天に達する階子のあり・・・ 宮本百合子 「有島武郎の死によせて」
・・・互に、夫は妻を強度のヒステリーと呼び、妻はその夫を性格破産者類似のものとして公表するような今日の増田氏の夫婦関係は、果して二十八年前、健全な結合におかれてあったのであろうか。今日富美子という人の行動に対して加えられるべき社会的批判があるとす・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・したがって、先ごろ、文学の外にいると考えられている人々の間から、文芸評論に類似する発言が迎えられた現象もおこした。また、同じフランス文学によっているきょうの同時代の人々の間でも、時代性ぬきのフランス派――それは、ヒューマニズムの世界史に立つ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・生活の現実の類似。貧しい仲間だという気持。それが強い動機となって一葉は桃水に親しみを覚えたにちがいない。ところが桃水との交際を中島歌子から叱られる。一葉は桃水との恋などとは思いもよらないことだといって、桃水とのつきあいは絶ってしまった。桃水・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・しかし人類の発展を良心的に歴史の歩みにしたがって理解しようとしている文学者にとって、第二次大戦のなかった昔と、その後の今日とでは、類似の文学現象にたいしても同一の感想はもちえないのである。 アメリカ人は日本人よりも、しんから笑う、という・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ その顔の類似が精神に及ぼす影響。 クリストへの愛、研究が深くなるにつれ、自分のキリスト的顔と、一村人としての性格との間の矛盾におそれを抱く。女達の崇拝する心持に対する自嘲、不幸な、苦しみ多き人間として生活するその内面を描いて見たい・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・ずいぶん色の賑やかな、その賑やかさにおいて不思議な類似をもった絵が多くて、そのなかでは一人一人の画家のテンペラメントというものも弱く表われていたし、現実の受けとり方も、個性が、或いは生活が平均化されていました。 もと「ヤップ」におられた・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
・・・であると名のりつつ、ジョフロア、サン・チェーレの生物学における種の認識を根拠として、社会と自然との類似を指摘し、「社会は人間をその生長すべく運命づけられた環境に従って作りあげる」と云う時、今日の知識人はバルザックが自然科学をよりどころとして・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・滝沢氏は批評の貧困を熱心に語っておられ、現在では批評家よりも演技者、演出家が語っている言葉の方が生き生きしていると、ある時期のプロレタリア作家の間に生じた批評に対する意見に類似した意見を語っていられる。興味あることは、その滝沢氏にしろ、その・・・ 宮本百合子 「一つの感想」
・・・八 ショオとドストイェフスキイとに一種の類似がある。それは知的と心理的とに特色を有する表現法が因をなしているかも知れない。しかし私は特に彼らの内からメフィストが首を出している所にそれを認めたい。そうしてまたそこに彼らの大きい・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫