・・・無理な類推ではあるが人間の個性も、やっぱり何かしらひと花咲かせてみないと充分にその存在がはっきりしない、あれと同じだというような気がするのである。 去年の七月にはあんなにたくさんに池のまわりに遊んでいた鶺鴒がことしの七月はさっぱり見えな・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・これは聴覚に関する音楽から類推して視覚的音楽を作ろうという意図から起こったものであろうが、これはおそらく誤った類推による失敗であろうと思われる。耳は音自身を聞き、しかもこれを無意識に分析しうる特殊の能力をもっている。しかし目はその映像の中に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ この自然現象の表示としての微分方程式の本質とその役目とをこういうふうに考えてみた後に、翻って文学の世界に眼を転じて、何かしらこれに似たものはないかと考えてみると、そこにいろいろな漠然とした類推の幻影のようなものが眼前に揺曳するように感・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 以上のスペキュレーションが多少でも事実に該当するとした時に血液成分中に含まれるいかなる成分が最も有効であるかという問題が起こるが、多くの場合から類推すると、おそらく膠のようなものや脂酸のようなもので COOH 根を有するものが最も有効・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・もしも、いつも半分風邪を引いているのが風邪を引かぬための妙策だという変痴奇論に半面の真理が含まれているとすると、その類推からして、いつも非常時の一歩手前の心持を持続するのが本当の非常時を招致しないための護符になるという変痴奇論にもまたいくら・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・しかしこの類推はこの場合にあてはまるかどうだかそれは分らない。 それにしても「節約デー」という言葉が私にはやはり不思議な感じを与える。もしこれが反対に「濫費デー」であったらその意味は私にはかえって呑み込みやすく、その効果も見当がつくよう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それの類推的想像と、もう一つは完全流体の速度の場と静電気的な力の場との類似から、例の不謹慎な空想をたくましくして、もしも放電の場合においても電場の方向に垂直なある不安定があれば、それによって、こういう週期性が生じはせぬかと思ったことがあり、・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・あまりに皮相的な軽率な類推の危険な事を今さらのように思ってみたりした。実際そんな単純な考えが熱狂的な少数の人の口から群集の間に燎原の火のようにひろがって、「芝」を根もとまで焼き払おうとした例が西洋の歴史などにないでもなかった。文明の葉は刈る・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・従って電車の場合の類推がどこまで適用するか、それは全く想像もできない。従ってなおさらの事この二つの方針あるいは流儀の是非善悪を判断する事は非常に困難になる。 これはおそらくだれにもむつかしい問題であろう。おそらくこれも議論にはならない「・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・それかと言ってこれはまた決して私の机上でこね上げた全くの空想ではないのであって、私自身が平常連句制作当時自分の頭の中に進行する過程を内省することによって常に経験するところの現象から類推して行った一つの「思考実験」であるので、これはおそらく連・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫