・・・文化文政の頃に成りたる風土記稿にしるせる如く、今も昔の定めを更えで二七の日をば用いるなるべし。昼餉を終えたれど暑さ烈しければ、二時過ぐる頃ようやく立出ず。 四方の山々いよいよ近づくを見るのみ、取り出でていうべき眺望あるところにも出会わね・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・ 出雲風土記には、神様が陸地の一片を綱でもそろもそろと引き寄せる話がある。ウェーゲナーの大陸移動説では大陸と大陸、また大陸と島嶼との距離は恒同でなく長い年月の間にはかなり変化するものと考えられる。それで、この国曳きの神話でも、単に無稽な・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・Yは、哀れな、腕が痛く心が重いので、雨を冒してまで方々を歩き廻る気になれず、従って私も部屋で、宿から借りた長崎風土記など読む。可愛く若い福島屋の細君が、「――鶴の枕でも、御覧になりませんか、何でも、楊貴妃が使ったものなんでございますって・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫