・・・ この年取った、そして、少しばかり風変りな科学者のこの話は、子供を教育する親達にも何かの参考になりそうである。また同時にすべての人々にとっても「こわいもの」に対する対策の一般的指導原理を暗示するようにも思われるのである。・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
一 電車で老子に会った話 中学で孔子や孟子のことは飽きるほど教わったが、老子のことはちっとも教わらなかった。ただ自分等より一年前のクラスで、K先生という、少し風変り、というよりも奇行を以て有名な漢学者に教・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 食いしんぼうのレコード保有者でも少し風変わりなのは、パリのムシウ・シエールである。この人は一年間に宴会に出席すること四百回、しかも毎回欠かさずに卓上演説をしてのけたそうである。わが国でも実業家政治家の中には人と会食するのが毎日のおもな・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・そういう風変わりな学者の逆境に沈むのは誠にやむを得ないことかもしれない。そうして、またそういう独創的な仕事の常として「きずだらけの玉」といったようなものが多いから、アカデミックな立場から批評してそのきずだけを指摘すればこれを葬り去るのは赤子・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・そうして妙な頭巾のような風変わりの帽子をかぶっておられたような気がする。とにかく他の先生がたに比べてよほど書生っぽい質素で無骨な様子をしておられたことはたしかである。 まじめで、正直で、親切で、それで頭が非常によくて講義が明快だから評判・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・アイデアル・センセーション、それが個人的になっておって、とにかくそれを言い現わし、それを実行しなければいても立ってもどうしてもいられない。風変りではあるが、人からいくら非難されても、御前は風変りだと言われても、どうしてもこうしなければいられ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・そして運動のための散歩の途中で、或る日偶然、私の風変りな旅行癖を満足させ得る、一つの新しい方法を発見した。私は医師の指定してくれた注意によって、毎日家から四、五十町の附近を散歩していた。その日もやはり何時も通りに、ふだんの散歩区域を歩いてい・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・その上僕の風変りな性格が、小学生時代から仲間の子供とちがって居たので、学校では一人だけ除け物にされ、いつも周囲から冷たい敵意で憎まれて居た。学校時代のことを考えると、今でも寒々とした悪感が走るほどである。その頃の生徒や教師に対して、一人一人・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・丁度画探しの画のようで横顔がやや逆さになって見えるのは少し風変りの顔だ。再び仰向になって、今度は顔のない方の天井の隅を睨んで居ると、馬鹿に大きな顔が忽然と現れて来る。 かように暗裏の鬼神を画き空中の楼閣を造るは平常の事であるが、ランプの・・・ 正岡子規 「ランプの影」
この短篇集は私にとってもすこし風変りな集となった。一番はじめの「朝の風」は極く最近のものだけれど、次の「牡丹」以下の作品はずっと昭和の初めごろまでさかのぼっていて「小祝の一家」に到る間に多くの年月がこもっている。 これ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『朝の風』)」
出典:青空文庫