・・・僕は飛行機を見た子どものように実際飛び上がって喜びました。「さあ、あすこから出ていくがいい。」 年をとった河童はこう言いながら、さっきの綱を指さしました。今まで僕の綱と思っていたのは実は綱梯子にできていたのです。「ではあすこから・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ 六 飛行機 僕は東海道線の或停車場からその奥の或避暑地へ自動車を飛ばした。運転手はなぜかこの寒さに古いレエン・コオトをひっかけていた。僕はこの暗合を無気味に思い、努めて彼を見ないように窓の外へ目をやることにした。す・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・それから新らしい潜航艇や水上飛行機も見えないことはなかった。しかしそれ等は××には果なさを感じさせるばかりだった。××は照ったり曇ったりする横須賀軍港を見渡したまま、じっと彼の運命を待ちつづけていた。その間もやはりおのずから甲板のじりじり反・・・ 芥川竜之介 「三つの窓」
・・・とても手も何も届きはしません。飛行機に乗って追いかけてもそこまでは行けそうにありません。僕は声も出なくなって恨めしくそれを見つめながら地だんだを踏むばかりでした。けれどもいくら地だんだを踏んで睨みつけても、帽子の方は平気な顔をして、そっぽを・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・ 雲は低く灰汁を漲らして、蒼穹の奥、黒く流るる処、げに直顕せる飛行機の、一万里の荒海、八千里の曠野の五月闇を、一閃し、掠め去って、飛ぶに似て、似ぬものよ。ひょう、ひょう。 かあ、かあ。 北をさすを、北から吹・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・また、師の発明工風中の空中飛行機を――まだ乗ってはいけないとの師の注意に反して――熱心の余り乗り試み、墜落負傷して一生の片輪になったのもある。そして、レオナドその人は国籍もなく一定の住所もなく、きのうは味方、きょうは敵国のため、ただ労働神聖・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・彼は飛行機や、モーターボートや、オルゴールや、空気銃などは一つも持ってみたことがありません。どれでも力蔵が持っているようなおもちゃの一つでも自分が持つことができたなら、自分はどんなにうれしいかしれないと思いました。 力蔵が持っている、い・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・「やっぱし、飛行機だ。俺は今の会社をやめる」 と、突然照井がいいだした。そして、自分たちがニューギニアでまるで乾いた雑巾から血を絞りとるほどほしかった航空機を作りに大阪の工場へ行くんだといって、じゃ、仲間の共同生活や小隊長を見捨てて・・・ 織田作之助 「電報」
・・・兵営の上には、向うの飛行機が飛んでいた。街には到るところ、赤旗が流れていた。 そこでどうしたか。結局、こっちの条件が悪く、負けそうだったので、持って帰れぬ什器を焼いて退却した。赤旗が退路を遮った。で、戦争をした。そして、また退却をつづけ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・舟をこしらえたり、家をこしらえたり、トンボや、飛行機や、いたちや、雉を捕るわなをこしらえたり、弓で海の中に泳いでいる魚をうったり。しかし、どれもこれも役立つようなものは一つもこしらえない。みんな子供の玩具程度のものばかりである。子供の時分に・・・ 黒島伝治 「自画像」
出典:青空文庫