・・・ 磯は黙って煙草をふかしていたが、煙管をポンと強く打いて、膳を引寄せ手盛で飯を食い初めた。ただ白湯を打かけてザクザク流し込むのだが、それが如何にも美味そうであった。 お源は亭主のこの所為に気を呑れて黙って見ていたが山盛五六杯食って、・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 桂はうまそうに食い初めたが、僕は何となく汚らしい気がして食う気にならなかったのをむりに食い初めていると、思わず涙が逆上げてきた。桂正作は武士の子、今や彼が一家は非運の底にあれど、ようするに彼は紳士の子、それが下等社会といっしょに一膳め・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・家じゅうのものがよみ、特に咲枝は太郎の生後百日目の食い初めのお祝い日であったのでうれしかったらしく、夕方、ハガキであなたへのお礼を書いて居りました。父は、深く心を動かされたらしく却って私に向っては何も云えない風で、しきりに島田のお父さんのこ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫