・・・台所の隣り間で家人の平常飲み食いする所なのだ。是は又余りに失敬なと腹の中に熱いうねりが立つものから、予は平気を装うのに余程骨が折れる。「君夕飯はどうかな。用意して置いたんだが、君があまりに遅いから……」「ウン僕はやってきた。汽車弁当・・・ 伊藤左千夫 「浜菊」
・・・文子がくれた金は汽車賃を払うと、もうわずかしか残らず、汽車の食堂での飲み食いが精いっぱいでしたので、汽車を降りて、煙草を買うと、もう無一文。しかし、かえってサバサバした気持で大阪駅から中之島公園まで歩きました。公園の中へはいり、川の岸に腰を・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・来た時には、東京の情景、見るもの聞くもの、すべて悲しみの種でしたが、しかし、少くとも僕一個人にとって、痛快、といってもいいくらいの奇妙なよろこびを感じさせられた事は、市場に物資がたくさん出ていて、また飲み食いする屋台、小料理屋が、街々にひし・・・ 太宰治 「女類」
これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未だ発せられない前のお話である。 新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏の若松屋という、・・・ 太宰治 「眉山」
・・・王子は、見ただけで胸が悪くなり、どれにも手を附けませんでしたが、婆さんと、ラプンツェルは、おいしいおいしいと言って飲み食いしました。いずれも、この家の、とって置きの料理なのでありました。食事がすむと、ラプンツェルは、王子の手をとって自分の部・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ すみれという店は土間を間にしてその左右に畳が敷いてあるので、坐れもすれば腰をかけたままでも飲み食いができるようにしてあった。栄子たちが志留粉だの雑煮だの饂飩なんどを幾杯となくお代りをしている間に、たしか暖簾の下げてあった入口から這入っ・・・ 永井荷風 「草紅葉」
出典:青空文庫