・・・葡萄酒のブランデーとかいう珍しい飲物をチビチビやって、そうして酒癖もよくないようで、お酌の女をずいぶんしつこく罵るのでした。 「お前の顔は、どう見たって狐以外のものではないんだ。よく覚えて置くがええぞ。ケツネのつらは、口がとがって髭があ・・・ 太宰治 「貨幣」
・・・甚だしきに到っては、ビイルを二本くらい持参して、まずそれを飲み、とても足りっこ無いんだから、主人のほうから何か飲み物を釣り出すという所謂、海老鯛式の作法さえ時たま行われているのである。 とにかく私にとって、そのような優雅な礼儀正しい酒客・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・、僕にこれをサントリイウイスキイだと言って百五十円でゆずってくれた人は、だ、いいかね、そのひとは、この村の酒飲みのさる漁師だが、このひと自身も、これをサントリイウイスキイという名前の、まことに高級なる飲み物であると信じ切っているんだから愉快・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・戦争が永くつづいて、日本にだんだん酒が乏しくなっても、そのひとのアパートを訪れると、必ず何か飲み物があった。私はそのひとのお嬢さんにつまらぬ物をお土産として持って行って、そうして、泥酔するまで飲んで来るのである。以上の四つが、なぜそのひとが・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・晩の御馳走は、蛙の焼串、小さい子供の指を詰めた蝮の皮、天狗茸と二十日鼠のしめった鼻と青虫の五臓とで作ったサラダ、飲み物は、沼の女の作った青みどろのお酒と、墓穴から出来る硝酸酒とでした。錆びた釘と教会の窓ガラスとが食後のお菓子でした。王子は、・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ゆく先で手に入れる一寸した飲物。仲よくつれ立つマルクス夫妻。嬉々として先に行く子供たち。談笑し議論しながら一団となって来る若き革命家たち。ほかの日には書斎のカーペットがすり切れているほど机のぐるりを歩き廻って、朝九時から夜中まで仕事している・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・婦人労働者たちは、デモに着て出る服の手入れでもして、四月三十日になると、モスクワ全市の食糧品販売店では、火酒、ブドー酒、ビール、すべてアルコールの入った飲物を一斉に――売り出すのか? そうじゃない、反対だ。絶対にアルコール飲料は売らなくなる・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
出典:青空文庫