・・・おそらくは病院にて飼養して在った家兎にちがいない。家兎は、猟夫を恐怖する筈はない。猟夫を、見たことさえないだろう。山中に住む野兎ならば、あるいは猟夫の油断ならざる所以のものを知っていて、之を敬遠するのも亦当然と考えられるのであるが、まさか博・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・ 事実は全くどうだかわからない、ただ以上のような場合が今後にもありうるものとすれば、私は多くの善良な象のためにまたその善良な飼養者のために、これだけの事を参考のために書いておくのもむだな事ではあるまいと思ったのである。・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・これは飼養者の立場である。鵞鳥の立場を問題にする人があらばそれは天下の嘲笑を買うに過ぎないであろう。鵞鳥は商品であるからである。人間もまた商品でありうる。その場合にはいやがる書物をぎゅうぎゅう詰め込むのもまたやむを得ないことであろう。そうい・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 鳥さしは維新以前には雀を捕えて、幕府の飼養する鷹の脚を暖めさせるために、之を鷹匠の許へ持ち行くことを家の業となしていたのであるが、いつからともなく民間の風聞を探索して歩く「隠密」であるとの噂が専らとなったので、江戸の町人は鳥さしの姿を・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・後年、鴨、鳩、鶏がかなり大仕掛けに飼養された前後にも、猫と犬とは、私共の家庭に、一種の侵入者としての関係しか持たなかった。 私は、猫の美と性格のある面白さを認めはするが、好きになれない。子供のうちからこれは変らない傾向の一つである。・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
出典:青空文庫