・・・よしその理想が実現できるにしてもこれを未来に待たなければならない訳であるから、書いてある事自身は道義心の飽満悦楽を買うに十分であるとするも、その実己には切実の感を与え悪いものである。これに反して自然主義の文芸には、いかに倫理上の弱点が書いて・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ 幸福感というものの高い質は、主我的な飽満の感覚、満喫感と同じでないというのも面白い事実である。むしろ美の感覚を通じたものであることは、尽きぬ暗示をふくんでいると思う。美が固定した静的なものでなければならないという今日の若い女のひとはす・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・デクレスはナポレオンの征戦に次ぐ征戦のため、フランス国の財政の欠乏の人口の減少と、人民の怨嗟と、戦いに対する国民の飽満とを指摘してナポレオンに詰め寄った。だが、ナポレオンはヨーロッパの平和克復の使命を楯にとって応じなかった。デクレスは最後に・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・享楽に飽満しない人が恐ろしく貧弱に見えた。IやJやKが真に愛着に価する人間に見えたのも不思議ではない。四 何ゆえに私は彼らを憎んだか。 それは私が彼らのごとき Aesthet ではなかったからである。私が Sollen ・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫