・・・と言葉つき不思議なるを、国はと問えば広島近在のものなる由。飾り気一点なきも樸訥のさま気に入りてさま/″\話しなどするうち京都々々と呼ぶ車掌の声にあわたゞしく下りたるが群集の中にかくれたり。京に入りて息子とかの宿に行くまでの途中いさゝか覚束な・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・すこぶる不器用な飾り気のないものである。 案内者はいずれの国でも同じものと見える。先っきから婆さんは室内の絵画器具について一々説明を与える。五十年間案内者を専門に修業したものでもあるまいが非常に熟練したものである。何年何月何日にどうした・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・れればよかったと沓脱の前で感じたとか、それが御宅ですという一言で急に帰りたい心持に変化したとか、ところへこちらへ上れとまた取次に出て来られてますます恐縮したとか、すべてそういう弱い神経作用がいささかの飾り気もなく出ている。徳義的批判を含んだ・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・ 一層飾り気ない真心で彼女はインガに云った。「――どうして、あんた、そんな工合に云いなさるんです? まるで私が涙の味も知らず、あんたの苦しみを見もしないように。私は、あなたでさえあれだけ愛しなすったかどうかあやしい程ミーチャを愛して・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・はまことにゴーリキイらしい飾り気なさ、温かさをもって彼とレーニンとの意見の相異についても書いている。ゴーリキイの誠意に満ちた、ひるむことのない、だが決してロシアにおけるプロレタリア革命の意味と、プロレタリアートの動かすべからざる革命的任務と・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫