・・・ただ道路の整理と建築の改善とそして街樹の養成とである。自分はこの点において、松江市は他のいずれの都市よりもすぐれた便宜を持っていはしないかと思う。堀割に沿うて造られた街衢の井然たることは、松江へはいるとともにまず自分を驚かしたものの一つであ・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・に必要なる人物を養成するゆえんにすぎない。そうして彼が教育家としてなしうる仕事は、リーダーの一から五までを一生繰返すか、あるいはその他の学科のどれもごく初歩のところを毎日毎日死ぬまで講義するだけの事である。もしそれ以外の事をなさむとすれば、・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・教と雖も是には過ぎない、それが一般の風習と聞いては予は其美風に感嘆せざるを得ない、始めて此の如き美風を起せる人は如何なる大聖なりしか、勿論民族の良質に基くもの多からんも、又必ずや先覚の人あって此美風の養成普及に勉めたに相違あるまい、栽培・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・オルガンやヴヮイオリンは学校の道具であって、音楽学校の養成する音楽者というは『蛍の光』をオルガンで弾く事を知ってる人であった。音楽会を開いて招待しても嘆願しても聞きに来る人は一人も無かった。 二十五年前には日本の島田や丸髷の目方が何十匁・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・何故かと云うに一般民衆にとって大学教育を受くると云うことは経済的に殆んど不可能の事であるし、今一つは大学教授と云うような人は自分の専門的の学科には忠実であろうが、学生の人格の養成や、或はどのような人間を作ろうかなど云うような事に就ては欠陥が・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・ これを要するに、大人が、功利的に、機械的に、強制的に、はじめから教育することを目的としてなされたものは、何一つとして、人格を養成する上に効果のなかったのを知らなければなりません。そして、子供達は、親達さえ、また、教える者さえ、真面目で・・・ 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・人間の倫理的養成がいかにわれらの禀性に本具しているかはこれでも思いあたるのである。その青春時代学芸と教養とに発足する時期において、倫理的要求が旺盛であるか否かということはその人の一生の人格の質と品等とを決定する重大な契機である。倫理的なるも・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・しかし、この矛盾・衝突は、ただ四囲の境遇のためによぎなくせられ、もしくは養成せられたので、その本来の性質ではない。いな、彼らは、完全に一致・合同しうべきもの、させねばならぬものである。動物の群集にもあれ、人間の社会にもあれ、この二者のつねに・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 此二者は古来氷炭相容れざる者の如くに考えられて居た、又た事実に於て屡ば矛盾もし衝突もした、然し此矛盾・衝突は唯だ四囲の境遇の為めに余儀なくせられ、若くば養成せられたので、其本来の性質ではない、否な彼等は完全に一致・合同し得べき者、させ・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・云わば『精神的の筋肉』を得てこれを養成しなければならない。それがためには語学の訓練はあまり適しない。それよりは自分で物を考えるような修練に重きを置いた一般的教育が有効である。」「尤も生徒の個性的傾向は無論考えなければならない。通例そのよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫