・・・それならばまだまだ安全であるが、排泄物をなくするために食物を全廃すれば餓死するより外はない。 鉛をかじる虫も、人間が見ると能率ゼロのように見えても実はそうでなくて、虫の方で人間を笑っているかもしれない。人間が山から莫大な石塊を掘りだして・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・ 一方ではまた捕虜になって餓死したとか、世の中が厭になって断食して死んだとか色々の説があるから本当のことは何だか分らない。しかし豆畑へはいるのがいやでわざわざ殺されたというのが本当だとすると、それは胃に悪いとか安眠を害するとかいうだけで・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・直接世間を相手にする芸術家に至ってはもしその述作なり製作がどこか社会の一部に反響を起して、その反響が物質的報酬となって現われて来ない以上は餓死するよりほかに仕方がない。己を枉げるという事と彼らの仕事とは全然妥協を許さない性質のものだからであ・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・』と、窓につかまって伸上り伸上りして、『国の為ッ国の為ッて、親も子も妻も餓死んでも、兄さんは兄さんは兄さんは……無理に殺しに連れてかれる人もないわ。阿母さんや嫂さんの事を思って頂戴よ。えッえッえッ。』『此所にも軍人はいくらも居るよ』・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・中にもその家の親子二人、子はまだ六つになるならず、母親とてもその大飢渇に、どこから食を得るでなし、もうあすあすに二人もろとも見す見す餓死を待ったのじゃ。この時、疾翔大力は、上よりこれをながめられあまりのことにしばしは途方にくれなされたが、日・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・諸君は餓死する。又世界中にもそれを宣伝したまえ。二十億人がみんな死ぬ。大へんさっぱりして諸君の御希望に叶うだろう。そして、そのあとで動物や植物が、お互同志食ったり食われたりしていたら、丁度いいではないか。」 私はなおさら変な気がしま・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その軍隊が壊滅した時、軍隊は同じその残虐さで数十万の人々をジャングルや山嶽の間にすてて餓死させ、白骨としました。 アジアの姉妹たちよ。そして日本の女性たちよ。アジアの地図の大半の土地からは、わたしたちが愛した者の最期のうめきがつたわって・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・ジャングルの中にカタメテすてられた部隊から、一人はなれた人の飢餓と苦悩の運命の終焉が、カタマって餓死した人々の運命とその本質においてどうちがったろう? 最悪の運命の瞬間に、八千五百万の利用できる人々としてカタメられることを拒絶するために、カ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・現地の軍当局の信じられないほどの無責任、病兵を餓死にゆだねて追放するおそろしい人命放棄についても記録されはじめた。大岡昇平氏の「俘虜記」そのほかの作品に見られる。ソヴェト同盟に捕虜生活をした人々のなかから、「闘う捕虜」「ソ同盟をかく見る」「・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・今になって幼な児になって餓死して天国に入ることは欲しない人間の大人の分別を呼びさまされます。 特権階級の政治的無能と没落のしるしを聖書のことばで瞞着するということは世界のどの歴史の蔵相もあえてしなかったことです。日本の蔵相は人民を愚弄し・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
出典:青空文庫