・・・蔓を糸でつないで、首にかけると、桜桃は、珊瑚の首飾りのように見えるだろう。 しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに食べては種を吐き、食べては種を吐き、食べては種を吐き、そうして心の中で虚勢みたいに呟く言葉は、子供よりも親が・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・自分ではコンチャといっている。首飾りに聖母の像のついたメダルを三つも下げている。 昼ごろサイゴンの沖を通る。四月十日 朝十時の奏楽のときに西村氏がそばへ来て楽隊のスケッチをしていた。ボーイがリモナーデを持って来たのを寝台の肱掛け・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・緋の外套に宝石の沢山ついた首飾りをつける。栗色の厚い髪を金冠が押えて耳の下で髪のはじがまがって居る。後から多くの供人。王が大きい方の椅子に坐すと供人が後に立ち、香炉持ハ左右に。紫っぽい細い煙りは絶えず立ちのぼって王の頭の上に・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・甲冑のほかには首飾りの曲玉や、頭の飾りなどのような装飾品も、「意味ある形」として重んぜられていたらしい。しかし何と言っても「意味ある形」のなかには、「顔面」の担っている意味よりも重い意味を担っているものはない。その点から考えると、埴輪人形の・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫