・・・これは駄菓子屋に売っている行軍将棋の画札である。川島は彼等に一枚ずつその画札を渡しながら、四人の部下を任命した。ここにその任命を公表すれば、桶屋の子の平松は陸軍少将、巡査の子の田宮は陸軍大尉、小間物屋の子の小栗はただの工兵、堀川保吉は地雷火・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・ 少時の後茶店を出て来しなに、巻煙草を耳に挟んだ男は、トロッコの側にいる良平に新聞紙に包んだ駄菓子をくれた。良平は冷淡に「難有う」と云った。が、直に冷淡にしては、相手にすまないと思い直した。彼はその冷淡さを取り繕うように、包み菓子の一つ・・・ 芥川竜之介 「トロッコ」
・・・張出しの駄菓子に並んで、笊に柿が並べてある。これなら袂にも入ろう。「あり候」に挨拶の心得で、「おかみさん、この柿は……」 天井裏の蕃椒は真赤だが、薄暗い納戸から、いぼ尻まきの顔を出して、「その柿かね。へい、食べられましない。」・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・ 中二階といってもただ段の数二ツ、一段低い処にお幾という婆さんが、塩煎餅の壺と、駄菓子の箱と熟柿の笊を横に控え、角火鉢の大いのに、真鍮の薬罐から湯気を立たせたのを前に置き、煤けた棚の上に古ぼけた麦酒の瓶、心太の皿などを乱雑に並べたのを背・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ところが、此寺の門前に一軒、婆さんと十四五の娘の親子二人暮しの駄菓子屋があった、その娘が境内の物置に入るのを誰かがちらりと見た、間もなく、その物置から、出火したので、早速馳付けたけれども、それだけはとうとう焼けた。この娘かと云うので、拷問め・・・ 泉鏡花 「一寸怪」
・・・今来た入口に、下駄屋と駄菓子屋が向合って、駄菓子屋に、ふかし芋と、茹でた豌豆を売るのも、下駄屋の前ならびに、子供の履ものの目立って紅いのも、もの侘しい。蒟蒻の桶に、鮒のバケツが並び、鰌の笊に、天秤を立掛けたままの魚屋の裏羽目からは、あなめあ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・軒前には、駄菓子店、甘酒の店、飴の湯、水菓子の夜店が並んで、客も集れば、湯女も掛ける。髯が啜る甘酒に、歌の心は見えないが、白い手にむく柿の皮は、染めたささ蟹の糸である。 みな立つ湯気につつまれて、布子も浴衣の色に見えた。 人の出入り・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・おその、蓮葉に裏口より入る。駄菓子屋の娘。その 奥様。撫子 おや、おそのさん。その あの、奥様。お客様の御馳走だって、先刻、お台所で、魚のお料理をなさるのに、小刀でこしらえていらしった事を、私、帰ってお饒舌をしました・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・軽焼の後身の風船霰でさえこの頃は忘られてるので、場末の駄菓子屋にだって滅多に軽焼を見掛けない。が、昔は江戸の名物の一つとして頗る賞翫されたものだ。 軽焼は本と南蛮渡りらしい。通称丸山軽焼と呼んでるのは初めは長崎の丸山の名物であったのが後・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・やがて箱車のふたが開いて、男ははたして飴チョコを取り出して、村の小さな駄菓子屋の店頭に置きました。また、ほかにもいろいろのお菓子を並べたのです。 駄菓子屋のおかみさんは、飴チョコを手に取りあげながら、「これは、みんな十銭の飴チョコな・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
出典:青空文庫