・・・山登りがじょうずで、城山を駆け回るなどまるで平地を歩くように、道のあるところ無い所、サッサと飛ぶのです。ですからこれまでも、田口の者が六蔵はどこへ行ったかと心配していると、昼飯を食ったまま出て日の暮れ方になって、城山の崖から田口の奥庭にひょ・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・ピクニックよりもダンスよりも、婦人何々会で駆け回るよりもこのほうがはるかに身にしみてほんとうにおもしろいであろうということは、「物を作り出すことの喜び」を解する人には現代でもいくらか想像ができそうである。 ついでながら西洋の糸車は「飛び・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ モーリスがシャトーの玄関をはいってから、人けのない広間をうろつきまた駆け回る場面の伴奏も抑揚変化が割合によくできていて人を飽きさせない。 医者が姫君を診察するとき、心臓の鼓動をかたどるチンパニの音、脈搏を擬する弦楽器のピッチカット・・・ 寺田寅彦 「音楽的映画としての「ラヴ・ミ・トゥナイト」」
・・・刈り株ばかりの冬田の中を紅もめんやうこんもめんで頬かぶりをした若い衆が酒の勢いで縦横に駆け回るのはなかなか威勢がいい、近辺のスパルタ人種の子供らはめいめいに小さな凧を揚げてそれを大凧の尾にからみつかせ、その断片を掠奪しようと争うのである。大・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・かつてのら猫の遊び場所であったつつじの根もとの少しくぼんだ所は、何かしらやはりどの猫にも気に入ると見えて、ボールを追っかけたりして駆け回る途中で、きまったようにそこへ駆け込んだ。そして餌をねらう猛獣のような姿勢をして抜き足で出て来て、いよい・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・子供らは仲間がおおぜいできたうれしさで威勢よく駆け回る。いったい自分はそのころから陰気な性で、こんな騒ぎがおもしろくないから、いつものように宵のうちいいかげんごちそうを食ってしまうと奥の蔵の間へ行って戸棚から八犬伝、三国志などを引っぱり出し・・・ 寺田寅彦 「竜舌蘭」
出典:青空文庫