・・・佐藤の夫婦は幾度も事務所に行って早く広岡を退場させてくれなければ自分たちが退場すると申出た。駐在巡査すら広岡の事件に関係する事を体よく避けた。笠井の娘を犯したものは――何らの証拠がないにもかかわらず――仁右衛門に相違ないときまってしまった。・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・交番を出でて幾曲がりの道を巡り、再び駐在所に帰るまで、歩数約三万八千九百六十二と。情のために道を迂回し、あるいは疾走し、緩歩し、立停するは、職務に尽くすべき責任に対して、渠が屑しとせざりしところなり。 六 老人は・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・「駐在所の且那が、おめえに、一寸、来いってよオ。」女房が、笹を伐りに行っていた米吉に帰ると云った。「何用だい?」「届けずに、こいつを建てたのが、いけねえんだってよオ。罰金を取るちゅうだぞ。」「何ぬかしヤがんだい! 便所なしに、一・・・ 黒島伝治 「名勝地帯」
・・・見廻りの途中、時々寄っては話し込んで行く赫ら顔の人の好い駐在所の旦那が、――「世の中には恐ろしい人殺しというものがある、詐偽というものもある、強盗というものもある。然し何が恐ろしいたって、この日本の国をひッくり返そうとする位おそろしいものが・・・ 小林多喜二 「争われない事実」
・・・ 農民は駐在所へ苦情を持ち込んだ。駐在所は会社の事務所に注意した。会社員は組員へ注意した。組員は名義人に注意した。名義人は下請に文句を言った。 下請は世話役に文句を云った。世話役が坑夫に、「もっと調子よくやれよ。八釜しくて仕様が・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・ 先年、モスクワ駐在の不幸な一日本海軍武官が神経の故障から何か個人的問題を起した。モスクワの或る新聞が社会面にそれを書いた。海軍武官はやがて日本の新聞もそれにならうであろうこと、それによって失われるであろう自分の名誉という強迫観念によっ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・うっかり本を読むとなまいきだとか、変りものだとかいわれるばかりでなく、東京から『改造』をとって読むようなものは、村の駐在の注意人物とされる。自分はもっと光明のある生活がしたい、そのために、東京に出たいがよい方法はないかという相談である。解答・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・ 一九一八年の党員で、フルンゼと一緒に赤色戦線で働き、クバン駐在赤軍政治部長をやった若いドミトリ・アンドレーウィッチ・フールマノフは、ボルシェビキ作家の誇、「チャパーエフ」、「反乱」などをわれわれに与えた。グラトコフの「セメント」、フセ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ 日本からいろんな外国へ駐在武官が派遣されている。そういう人々に聞いてみたら、彼等はきっと云うだろう。「さあ、ポーランドなんかなかなかいい方だね。とても日本人を優待するよ。特別あすこは軍人がもてるからね」 だが、わたしはどんな駐・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
出典:青空文庫