・・・んなことは右の句の鑑賞にはたいした関係はないことであろうが、自分はこういう瑣末な物理学的の考察をすることによってこの句の表現する自然現象の現実性が強められ、その印象が濃厚になり、従ってその詩の美しさが高まるような気がするのである。 ・・・ 寺田寅彦 「思い出草」
・・・ ある通俗な書物によると、甲状腺の活動が旺盛な時期には性的刺激に対する感度が高まると同時にあらゆる情緒的な刺激にも敏感になり、つまり泣きやすくもなるそうである。青春の男女のよく泣くのはそのためかと思われる。しかし非常に年を取ったばあさん・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そうして評判は広告と宣伝によって高まるとすれば、書籍の生産者が売薬化粧品商と同一の手段を選ぶのは当然のことであって、これをとがめるのは無理であろう。ただ現在日本で特にこの現象の目立つのは、思うにそれぞれの方面において書籍の価値批評をする権威・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・すると、その仕事の本国における価値が急に高まるのである。ちょうど反古同様の浮世絵が、一枚何千円にもなると同様である。それと反対に、もし外国の雑誌にでも、ちょっとした、いい加減な悪口でも出ると、それがあたかも非常な国辱ででもあるように感ぜらる・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・なり、いずれも婦人の方を本にして論を立てたるものにして、今の婦人の有様を憐れみ、何とかして少しにてもその地位の高まるようにと思う一片の婆心より筆を下したるが故に、その筆法は常に婦人の気を引き立つるの勢いを催して、男子の方に筆の鋒の向かわざり・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 賃銀さえ男と同じになれば婦人労働者の生活が幸福となり、内容において高まると観るのはもちろん皮相でもあるし、非現実的である。けれども、婦人が自身の性の本然と勤労の必要との間で板挾みにあっている今日の苦しさは、女という性によって働き仲間で・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 生活の環がひろがり高まるにつれて女の心も男同様綺麗ごとにすんではいないのだし、それが現実であると同時に、更にそれらの波瀾の中から人間らしい心情に到ろうとしている生活の道こそ真実であることを、自分にもはっきり知ることが、女の心の成長のた・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・一人の人が自分のためだけに志を立て、自分の成功のためだけに努力し、富を殖し、社会的に有名人となったというだけの話をきいても、私たちが真の人間としての偉さにうたれたり、心の高まるような歓びを見出したり出来ないのは自然でしょう。本当の偉さはそう・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・そして真の優良な結婚というものは、それらを条件としつつ一層互にたすけ合い高まる人間の理解と協力の美しい力を必要とすることを学んで行くべきなのだと思う。 人と人との間に在り得る理解というもの、ましてやそれが種々様々の昨日と今日との歴史をこ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ところが、階級が文化的に高まれば高まる程、彼等が知るのはその様に文化的発展を遂げさせる基礎としてのソヴェト同盟の社会主義生産の価値だ。愈々社会主義的生産の技術を高めようとする。かくてより高く、高く!「五ヵ年計画を四年で!」これは全く正しい生・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫