上 実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師たるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰をしいて、某の日東京府下の一病院において、渠が刀を下すべき、貴船伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・ 天に年わかき男星女星ありて、相隔つる遠けれど恋路は千万里も一里とて、このふたりいつしか深き愛の夢に入り、夜々の楽しき時を地に下りて享け、あるいは高峰の岩角に、あるいは大海原の波の上に、あるいは細渓川の流れの潯に、つきぬ睦語かたり明かし・・・ 国木田独歩 「星」
・・・近づくにつれて、晴川歴々たり漢陽の樹、芳草萋々たり鸚鵡の洲、対岸には黄鶴楼の聳えるあり、長江をへだてて晴川閣と何事か昔を語り合い、帆影点々といそがしげに江上を往来し、更にすすめば大別山の高峰眼下にあり、麓には水漫々の月湖ひろがり、更に北方に・・・ 太宰治 「竹青」
・・・深山の峰から峰と一つ一つ登って行ってはそこから百キロ以内の他の高峰との見透しを調べて歩くのである。一点を決定するのに平均二週間はかかる。そうして三角点の配布が決定したら、次にはそこに櫓を組む造標作業がある。場所によっては遠い下のほうから材木・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
出典:青空文庫