・・・自分が、大学へ入ったその春に、兄が上京して来て、高田馬場の私の下宿の、近くにあったおそばやで、「おまえも一緒に行かないか、どうか。自分は一廻りしてくるつもりだが、おまえは途中でフランスあたりにとどまって、フランス文学を研究してもどうでも・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ちょうど、今、あの交番――喜久井町を降りてきた所に――の向かいに小倉屋という、それ高田馬場の敵討の堀部武庸かね、あの男が、あすこで酒を立ち飲みをしたとかいう桝を持ってる酒屋があるだろう。そこから坂のほうへ二三軒行くと古道具屋がある。そのたし・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・の包みをかばいながら、高田馬場からなじみふかい小瀧橋への通りを歩きながら、なんともいえず奇妙な落つけない気分がした。生きている。歩いている。考えたり、感じたりしている。まざまざと、日々の現実が心にてりかえされてくる。だのにそれを表現してつた・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫