・・・君ニ逢ウタラ鰹節一本贈ルナドトイウテ居タガ、モーソンナ者ハ食ウテシマッテアルマイ。 虚子ハ男子ヲ挙ゲタ。僕ガ年尾トツケテヤッタ。 錬郷死ニ非風死ニ皆僕ヨリ先ニ死ンデシマッタ。 僕ハ迚モ君ニ再会スルハ出来ヌト思ウ。万一出来タトシテ・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』中篇自序」
・・・ いくら資本主義の統治下にあって、鰹節のような役目を勤める、プロレタリアであったにしても、職業を選択する権利丈けは与えられているじゃないか。 待って呉れ! お前は、「それゃ表面のこった、そんなもんじゃないや、坊ちゃん奴」と云おうとし・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・茄子、胡豆など醤油のみにて煮て来ぬ。鰹節など加えぬ味頗旨し。酒は麹味を脱せねどこれも旨し。燗をなすには屎壺の形したる陶器にいれて炉の灰に埋む。夕餉果てて後、寐牀のしろ恭しく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。蚊なし。 十九日、朝起・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫