・・・前に馴染だった鳥屋の女中に、男か何か出来た時には、その女中と立ち廻りの喧嘩をした上、大怪我をさせたというじゃありませんか? このほかにもまだあの男には、無理心中をしかけた事だの、師匠の娘と駈落ちをした事だの、いろいろ悪い噂も聞いています。そ・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・そこで黐で獲った鴨を、近所の鳥屋から二羽買って来させることにした。すると小杉君が、「鉄砲疵が無くっちゃいけねえだろう、こゝで一発ずつ穴をあけてやろうか」と云った。 けれども桂月先生は、小供のように首をふりながら、「なに、これでたくさんだ・・・ 芥川竜之介 「鴨猟」
・・・――引手茶屋がはじめた鳥屋でないと、深更に聞く、鶏の声の嬉しいものでないことに、読者のお察しは、どうかと思う。 時に、あの唄は、どんな化ものが出るのだろう。鴾氏も、のちにお京さん――細君に聞いた。と、忘れたと云って教えなかった。「―・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 菅笠を目深に被って、※ッて、せッついても、知らないと、そういってばかりおいでであったが、毎日々々あまりしつこかったもんだから、とうとう余儀なさそうなお顔色で、(鳥屋の前にでもいって見て来るが可 そんならわけはない。 小屋を・・・ 泉鏡花 「化鳥」
・・・家には、鳥屋というより、小さな博物館ぐらいの標本を備えもし、飼ってもいる。近県近郷の学校の教師、無論学生たち、志あるものは、都会、遠国からも見学に来り訪うこと、須賀川の牡丹の観賞に相斉しい。で、いずれの方面からも許されて、その旦那の紳士ばか・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
鳥屋の前に立ったらば赤い鳥がないていた。私は姉さんを思い出す。電車や汽車の通ってる町に住んでる姉さんがほんとに恋しい、なつかしい。もう夕方か、日がかげる。村の方からガタ馬車がらっぱを吹いて駆けてくる。・・・ 小川未明 「赤い鳥」
・・・ 子供は、街を歩いていますと、鳥屋がありました。大きな台の上で、男が、三人も並んで、ぴかぴか光る庖丁で鶏の肉を裂き、骨をたたき折っていました。真っ赤な血が、台の上に流れていました。その台の下には、かごの中で他の鶏が餌を食べて遊んでいまし・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・ 三度めにいったのは、鳥屋でありました。そこへいっても、彼女はよく働きました。鳥に餌をやったり、いろいろ鳥の世話をしました。月日は早くもたって、すでに三たび結婚をしてから、十年あまりにもなりました。すると、夫はあるとき、病気にかかりまし・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
・・・「きょう、秀公といっしょに帰ったら、鳥屋の前で、いろいろの鳥が鳴いているのを見て、ああ、うそが、琴を弾じているといったんだよ。」と話しました。「うそってなあに?」と、お姉さんがたずねられました。「姉さんは、まだ、うそという鳥を知・・・ 小川未明 「二少年の話」
一 深川八幡前の小奇麗な鳥屋の二階に、間鴨か何かをジワジワ言わせながら、水昆炉を真中に男女の差向い。男は色の黒い苦み走った、骨組の岩畳な二十七八の若者で、花色裏の盲縞の着物に、同じ盲縞の羽織の襟を洩れて、印・・・ 小栗風葉 「深川女房」
出典:青空文庫