・・・元祖本家黒焼屋の津田黒焼舗と一切黒焼屋の高津黒焼惣本家鳥屋市兵衛本舗の二軒が隣合せに並んでいて、どちらが元祖かちょっとわからぬが、とにかくどちらもいもりをはじめとして、虎足、縞蛇、ばい、蠑螺、山蟹、猪肝、蝉脱皮、泥亀頭、手、牛歯、蓮根、茄子・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・ 室へ帰る時、二階へ通う梯子段の下の土間を通ったら、鳥屋の中で鷄がカサコソとまだ寝付かれぬらしく、ククーと淋しげに鳴いていた。床の中へもぐり込んで聞くと、松の梢か垣根の竹か、長く鋭い叫び声を立てる。このような夜に沖で死んだ人々の魂が風に・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・しかし小鳥屋専門の店ではなかったような気がする。 その×は色の白い女のように優しい子であったが、それが自分に対して特別に優し味と柔らか味のある一風変った友達として接近していた。外の事は覚えていないがただ一事はっきり覚えているのは、この子・・・ 寺田寅彦 「鷹を貰い損なった話」
・・・物を食うにも鳥屋の二階を不便となし、カッフェーを便としている。是が理由の第二である。 銀座通にカッフェーの流行し始めてから殆二十年の歳月を経たことは既に述べた。二十年の間に時勢は一変した。時勢の変遷につれて、僕自身の趣味も亦いくらか変化・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ それから全体どこで買うのかと聞いて見ると、なにどこの鳥屋にでもありますと、実に平凡な答をした。籠はと聞き返すと、籠ですか、籠はその何ですよ、なにどこにかあるでしょう、とまるで雲を攫むような寛大な事を云う。でも君あてがなくっちゃいけなか・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・と云って居た。鳥屋に売ろうとしたら「あんまりこわそうだからない」と云ってことわられたのでどうにも出来ずやっぱりもとのようにあばれさして置いた。ひまな時たいくつな時などはいつでもごん平じいの家に行ってをからかって遊んで居た。其の日もたいくつま・・・ 宮本百合子 「三年前」
・・・ 友達であった女、神戸に鳥屋をして居、それを、男のために売りたい。相談して岡田をひっかけ買わす。失敗 又東京に来る。やけ。 わるい男 Yのところに居るのに「何も其那とこに居いでもええやろ、若いのに」などそそのかした男。・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 鳥が来てから鳥屋を作ったり、「餌は米ばっかり食うのかな。などと云って居るのを聞いて、「あれじゃあ食い潰される。などと云って居た。 日曜を一日、孝ちゃんの助手で作りあげた小屋には戸も何にもなくって、止・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 食物に我を忘れて居た鶏共は、不意に敵の来襲をうけてどうする余地もなく、けたたましい叫びと共にバタバタと高い暗い鳥屋に逃げ上ろうとひしめき合う。あまりの羽音に「きも」を奪われたのか、犬はその後には目もくれずにじめじめした土間を嗅ぎ廻る。・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 或るレクラム版の翻訳の金が入ったところで、彼等はそれから江戸川べりの鳥屋へ行った。十四ばかりの愛くるしい娘がいた。尾世川がいくら訊いても笑って本名を教えない。尾世川は勝手に鳥ちゃん、鳥ちゃんとその娘を呼んだ。 三・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫